”複数”のけだものと”孤独”なけだもの

クリープハイプ『世界観』アルバム全収録曲歌詞解説!⑧けだものだものの画像

「けだものだもの」は、クリープハイプの作品の中いうと、「最夜」「火まつり」「そう言えば今日から化け物になった」に続く、どこか懐かしい日本らしいサウンドの曲です。

クリープハイプの初期の曲は、こういった歌謡曲っぽい曲が多くありました。

メジャーになった今でもたまに、原点回帰じゃないですけど、発表されることがありますのでこういった曲調は珍しくはありません。

一見、意味を汲み取りづらいく、ニュアンス重視の曲だと思われるかもしれませんが、このようなディープな作品でも尾崎世界観お得意の言葉遊びが沢山散りばめられていてとても興味深いです。

今回はクリープハイプを日頃から聴いている私だからこそ感じ取った解釈でまとめさせて頂きました。

尾崎世界観がどういう人なのか興味が湧くと思います。本人が、メディアでおっしゃっていた事を参考にしてみました。

では今までと少し違った視点で読み取っていきたいと思います!

目=顔のある世界。口=顔の無い世界。

クリープハイプ『世界観』アルバム全収録曲歌詞解説!⑧けだものだものの画像

もうやだよ 目は口ほどに物を言うとか言うけれど
あぁもう駄目だ 10個もあったらうるさくてしょうがないね
もうやだよ 目は口ほどに物を言うとは言ってもさ
あぁもう駄目だ 口だって20個あるから困るね
「どんな姿をしていても」なんてどの口が言ってるんだろう
空っぽの目には映ることのない目を覆いたくなるようなけだもの
どんなに目を凝らしても人間には程遠い姿の
鏡に映るこの何かを見て目を覆いたくなるだけだもの
なんてね

出典: けだものだもの/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観

年々知名度が高くなるに連れて、沢山の目に見られる側になっていき、増えれば増えるほどにうるさく感じてしまう反面、嬉しい。

相手の顔を眼に見えるから安心する。

一方で、自分が知らない中で好きな事を言われる日々。

誰でも繋がれる時代。誰でも好き勝手に言葉を投稿出来る毎日。

顔が見えない為に、どんな人が書いているのかわからないから不安。

見たく無いものでも視界に入ってきたり、聴きたくないことでも耳に入って来やすい現代のあり方を、1つのけだものに例えて、歌っているように感じ取れます。

今や、一般人や有名人でも簡単に気持ちを伝えられる世の中。嬉しいことなんだけど、余計なものでもありますよね。

喉から手が出る程欲しいもの=音楽を好きな人達

もうやだよ 喉から手が出るほど欲しかっただけなのに

出典: けだものだもの/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観

バンドの事を知ってくれる人が増れば、それぞれの受け取り方がある。 自分を好きでいてくれる人。アンチする人。 クリープハイプは、好き嫌いがハッキリしやすいバンドです。 バンドというのは偏見されやすく、馬鹿にしてくる人も沢山居ます。 自分たちの音楽をしっかりと受け止めて欲しいだけなのに、 悪い言葉ばかりが目立ってしまう。 いい言葉も沢山あるけど、悪目立ちしてしまう。 聴き手とのギャップに意気消沈しているように感じます。

優しく握り返してくれた手=クリープハイプのファンの人達

クリープハイプ『世界観』アルバム全収録曲歌詞解説!⑧けだものだものの画像

「ほど」では済まずに本当に喉から出てきた手を

それでも優しく握り返してくれた手

出典: けだものだもの/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観

一人でも多くの人に知ってもらいたい、聴いてもらいたい。

気持ちが強すぎて、一方的に差し伸ばしてしまった手を、優しく握り返してくれた手。

その手こそが、応援してくれているファンの方達のように思いました。

もしこの節目となるアルバム以外で発表された曲ならば、また違う解釈があったかもしれません。

クリープハイプを総評するアルバムだからこそ見えてくる姿です。

鏡に映るこの何か=尾崎世界観

クリープハイプ『世界観』アルバム全収録曲歌詞解説!⑧けだものだものの画像

「どんな姿をしていても」なんてその口が言ったんだね
握り潰した手の感触さえ優しく手のひらに残った
そんなに目を凝らしたら人間には程遠い姿の
瞳に映るこの何かを見て目を覆いたくなるだけだもの
死んでね

出典: けだものだもの/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観

こんなに愛されるバンドになった今でも、天邪鬼でひねくれ者。 この鏡に映った姿は、尾崎世界観自身のように感じます。 評価されたい。売れたい。認められたい。 そんなよく深いけだものこそが自分。 少数派よりも多数派だった考え方をしていた少し昔の姿。 色んな事が出来るようになって、支えてくれる人が増えて、 満たされているはずなのに、どこか納得がいかない。 そんな自分を、けだものに投影して、 全体的に皮肉っているように読み取れます。 この曲には、2つのけだものが登場しているように感じました。 聴き手と作り手を、妖怪に見立てて描かれているのが、 気持ち悪さと不気味さが合わさった、独特な雰囲気を持っています。 歌詞の世界を彷彿させるサウンドも非常に心地が悪く、 おばけ屋敷に入っているような気分になります。 夜に聴くと少し怖いです。(笑)