「C’mon」
18thアルバムのタイトル曲
「C’mon」は、2011年の7月にリリースされた18thアルバムのタイトル曲として、1曲目に収録されている曲です。
このアルバムはリリース前年の5月頃から制作に着手、完成までに1年とちょっとを費やした形になりますね。
途中でお互いのソロ活動の為に小休止を挟むことはあったようですが、もっと大きな中断を余儀なくされる大変なことが起こります。
忘れもしないあの日、2011年3月11日、東日本大震災です。
大きな揺れ、繰り返し押し寄せる想像を絶する津波、そして福島第一原子力発電所の事故……。
戦後最悪とも言われた未曽有の悲劇に襲われた日本は、悲しみに覆われました。
一時は完全にアルバム制作がストップ
その時期アルバムの制作作業にあたっていたB'zも、東日本大震災によって完全に作業はストップした、と後に語っています。
それは交通機関がマヒしてスタッフがそろわないとか、節電の関係という原因だけでなく、気持ちの上で完全に止まってしまったそうです。
何気ない、このままずっと続いていくと思われた平和な毎日が、一夜にして崩れ去り、たくさんの人が亡くなり、多くの被災者が困難に見舞われました。
それまで通りの気持ちで何事もなかったかのようにレコーディングを進めるのは不可能だったというのは、無理のないことだと思います。
アルバムに収録する予定の曲はほぼ出来ている状態であったということですが、震災後しばらく制作を止めた後、新しくできた曲がこの「C’mon」。
そして同じアルバムに収録されている「ボス」という曲の2曲でした。
「C’mon」に込められたB'zの想い
B'zとして、今に状況にふさわしい言葉
アーティストは、自分の中にある想い、考え、そして伝えたいことを表現します。
その本人が何か大きく影響やショックを受けたら、それが表現するものに姿を現すことは当然といえるでしょう。
「C’mon」は、震災の影響を受けてできた曲だと、B'zの2人は語ります。
そしてB'zが、今この時にこそ発さなければならない、それにふさわしい言葉として”C’mon”という言葉が出てきたようです。
頑張ろうでも、生きようでも、強くなれでもなく、一緒に行こう、さあこっちにおいでよと呼びかける”C’mon”という言葉に行き着いたB'z。
とても彼ららしさを感じます。
強くなれとか、頑張れといった励ましは、悪気はなくても場合によっては人を追い詰めたり傷つけたりすることもあります。
ぎりぎりのラインで一生懸命に頑張っているのに、それでもまだ頑張れといってしまうことは時に残酷です。
みんなが必死に頑張っている、耐えられないほど辛い想いを抱えたままそれでも何とか前を向こうとしている、それを全て受け止めて一緒に行こうと歌いかける。
彼らがこの曲につけたタイトル「C’mon」には、そんなB'zの震災への想いが込められているようです。
歌詞の世界に注目
ではここからは、「C’mon」の歌詞を見ていきましょう。
離れてしまえば ぼやける故郷の灯
でも忘れてるわけじゃない your sign
優しく見つめ 支えてくれた人
大切なものなくしても まだ僕と君がいるなら
もう一度笑いあおう 愛しい人よ
掠れそうな声でいい 聞かせて
止まらない それだけで生まれるチャンス
口笛でも吹きながら
ゆっくりでいい さあ 行きましょう C'mon
出典: C’mon/作詞:KOSHI INABA 作曲/TAK MATSUMOTO
ずっとそっこにあると信じて疑わなかったあの街。
故郷というものは、その人の原点となってずっとその人の心の中に存在し続けます。
本人はすっかり忘れていたと思っていても、その人を形作っているのはその故郷での経験かもしれません。
そして、普段は意識していなくても心のどこかで大切に思っている。
懐かしい、大切な思い出の詰まったあの街を。
いつ何が起こるかは分からない、とは理屈ではわかっていても、本当に全てを壊す何かが起こってしまったら。
何もかも失い、心が壊れてしまうかもしれません。
がむしゃらに頑張っても、大切な人もどこにも戻ってこない、生活も元通りにはならないかもしれません。
でもそこで、周りが”頑張れ”って言ってしまうと、その人はどこにも弱音を吐けなくなり、追い詰められてしまいます。
だから、B'zは優しく、笑いあおうと語りかけます。
笑いを忘れて悲しみの底に沈んでいても、ゆっくり笑えるようになろう、一緒に進んでいこうと。
笑いあって、さあ行こう
1人じゃ何もできない
今ごろ 知らされる
風にのって飛んでくる 誰かの cryin'
いつものように 僕は耳を塞ぐのか
ひざまずいて祈っても 消えた時が戻らないなら
もう一度笑いあおう 愛しい人よ
かわいたこの心 満たして
尊い時間は今始まる
先はまだ長いけど
ゆっくりでいい さあ行きましょう C'mon
出典: C’mon/作詞:KOSHI INABA 作曲/TAK MATSUMOTO
窮地に陥った時にふと触れる人の優しさに、絆の存在を感じたりすることもあるでしょう。
自分さえよければ、そういう風潮が罷り通る今のこの世の中ですが、弱い立場の人の挙げる声を無視するのもそれに何らかの答えを出そうとするのも全ては自分次第です。
大したことはできない、自分には何も力がない、という人もいるかもしれません。
でも、そんなことはないのです。
人それぞれ、できることはたくさんあります。話を聞いてほしい人に耳を傾ける、泣きたい人に寄り添う。
人間としての有り方を問われる場面で、自分がどう振舞えるかが人間としての価値を決めるといってもいいでしょう。
絶望の後、残されたものはどうすればいいのか。
失った時は、もう戻っては来ません。
去っていった大切なものは心の大事な部分に持って、これから始まる時に一歩を踏み出さなければなりません。
その道はどこまで続いているのか、そしてどんな道なのか見当はつかなくても、手を取り合って、進んで行くのです。
愚痴ってもいいよ
疲れすぎたなら
もう一度笑いあおう 愛しい人よ
かわいたこの心 満たして
手を取り かけぬけた思い出が
今も燃えているなら
僕らは負けないだろう さあ行きましょう C'mon
出典: C’mon/作詞:KOSHI INABA 作曲/TAK MATSUMOTO