ラブソング「君の隣」の正体
分かりやすいメロディで伝えたかったこと
2014年1月29日発表、aikoの通算31作目のシングル「君の隣」。
彼女の作品にしては分かりやすいコード進行やメロディで歌いやすくできています。
普段でしたらとても弾き語りなどではカヴァーできないほどに複雑なaikoのコード進行。
しかしこの曲は思い立って練習すればきっとものにできる程度にシンプルなコード進行です。
この点はカラオケで歌うにも同様のことでしょう。
それはこの曲の歌詞にこそ大きな秘密と理由があるのです。
彼女がどうしてもリスナーに馴染みやすいメロディとコード進行にした理由。
それはこの歌詞をファンやリスナーと一緒に歌いたいからです。
それほどの深い想いが込められた歌詞を丁寧に紐解きながら考察いたします。
それでは実際の歌詞を見ていきましょう。
「雨」や「雷」という隠喩
人間の共感力がなすこと
真っ暗真っ暗たまらぬ雨と 眠れぬここに何度も刺す雷悲しい
君が遠くで泣いていないか 今夜は胸が締め付けられる程苦しい
出典: 君の隣/作詞AIKO 作曲:AIKO
歌い出しの歌詞です。
語り手は荒れる天候の中で君の心のあり方を心配します。
「雨」「雷」これは実際の天候の話で直喩であることも考えられますが、もっと深い何かの隠喩であるでしょう。
心が安定しない不確かな日々。
泣き濡れて暮らすほどの哀しい境遇。
考えられる状況はこのように心配せずにはいられない状況を「雨」「雷」で指したようです。
今は遠くにいる君のことを語り手は深く深く心配するあまり、自分の心も締め付けられる想いに苛まれます。
ここで大切なことはたとえ物理的な距離が遠く長く横たわっていても共感力は消えないのだということ。
むしろ遠く離れているからこそ相手の状況が分からなくなって心配してしまう姿が描かれます。
人間の共感力は本来それほどに強いものでしょう。
aikoのように感性が特別に敏感な人にとってはなおさらのことなのです。
語り手の祈りの深さ
ふたりになれたなら乗り越えられる
枯れずに咲いて 自惚れ愛して泣き濡れ刻もう
螺旋描いて 渦に潜って二人になれたら
出典: 君の隣/作詞:AIKO 作曲:AIKO
語り手の希望を描いたラインです。
「雨」「雷」に負けないような強さを身に着けて君の勇気になることを願います。
誰かの助けになるにはまず自分が強くないと説得力を持ちません。
aikoは毎日ファンやリスナーのことを考えながらそうした強さを自分のものにしている人。
語り手にaiko自身の姿を投影します。
今は遠くにいる君と螺旋の渦の中に身を投げることで近しくなりたい気持ちを歌うのです。
語り手は君と1:1の関係になることを望みます。
慰めたり力付けたりするにはどうしても距離を縮めることが必要なのです。
語り手はaiko自身
ファンやリスナーの隣にいる
いつだって君が好きだと小さく呟けば
傷跡も消えて行くの もう痛くない
雨が止み光射すあの瞬間に
ねぇ 隣で歌わせて
出典: 君の隣/作詞:AIKO 作曲:AIKO
君への好意が歌われてラブソングのような様相を呈するラインです。
しかしもう少し慎重に見ていきましょう。
自分の好意を口にして確認すると様々な悩み事も心の傷も癒えてゆきます。
私たち人間にとって誰かを好きになることは自分を強く成長させるのです。
孤独な境遇を超えて君のそばに生きたいと願う心自体に潜む主体性の力がそうさせます。
心に傷を負ったことがある人は他の人の痛みにも敏感になれる。
自分の傷が癒えたときには誰かの痛みを取り除くために助力になりたい。
語り手の想いは君のために力になりたいという願いでいっぱいです。
もうすでに「雨」はやみそうです。
雷雨が終わった瞬間に月や星の光が雲間から見えてくる。
それは希望の兆しです。
そのときに語り手は「君の隣」で歌いたいと願います。
語り手はおそらくaiko自身の姿なのでしょう。
それならば彼女がいつも気にしている遠くにいる君とはおそらくファンやリスナーのことでしょう。
「君の隣」という曲はラブソングに模したaikoからファンへ向けての手紙のようなものなのです。