斬新だった「アイ・フィール・ファイン」
ジョン・レノンの苦悩やアイディア
1964年11月発表、ビートルズの通算8作目のシングル曲「アイ・フィール・ファイン」。
「1964年はビートルズの年」と歌ったのはサイモン・アンド・ガーファンクルです。
前年12月にリリースした「抱きしめたい」で初めて全米No.1を獲得した勢いが続きます。
ビートルズの曲がアメリカ・ビルボード誌の1位から5位までを独占したのもこの年です。
「抱きしめたい」には自信満々だったジョン・レノン。
しかしこの曲「アイ・フィール・ファイン」のチャート・アクションに関しては自信がなかったそうです。
そんなジョンの迷いは杞憂に終わり、全米シングルチャートで3週連続1位を記録します。
この曲の歌詞は非常に明るいものです。
恋人の魅力にぞっこんの青年男性の独白がベースになっています。
明るく順調な恋愛模様でタイトルが「アイ・フィール・ファイン」。
マシンガントークでのろける
話し手と聞き手と彼女という登場人物
Baby's good to me you know
She's happy as can be you know
She said so
I'm in love with her and I feel fine
出典: アイ・フィール・ファイン/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
華やかな歌い出しです。
何にしてもハッピーな内容の歌詞を和訳して解説いたします。
「あの娘は僕に良くしてくれる
分かるよね
あの娘は本当に幸せそうなんだ
分かるよね
あの娘がそういったよ
僕はあの娘に恋しているよ
気分がいいね」
主人公は彼女との交際が順調でのろけまくっています。
話の聞き手は「You」であるところのリスナーである私たちです。
ジョン・レノンの歌詞は「HELP!」辺りから独自のメッセージを告発するようになります。
そして「In My Life」で初めて歌詞を文学的な詩の領域にまで昇華するのです。
それ以前の歌詞は音楽のために添えたものくらいのウェイトしか置いていません。
「アイ・フィール・ファイン」はまだまだ詩的才能が開花する以前のものです。
とにかく恋愛がうまくいっていることを喋りまくります。
歌詞の意味というよりも原詩に感じられる音韻の響き方に注意して聴きたいです。
リード・ヴォーカルは当然にジョン・レノン。
コーラスにポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンが加わります。
ロック史に遺るフィードバック
ジミ・ヘンドリックスよりも先行していた
まずはイントロのギターのフィードバックに耳を傾けましょう。
フィードバックとはギター・アンプのボリュームを上げることで得られるハウリングのようなものです。
後年にジミ・ヘンドリックスがバカでかいマーシャル社のギター・アンプを使用します。
このアンプとストラトキャスターの組み合わせで彼は自在にフィードバックさせるのです。
人為的にハウリングを起こすことで独自なハード・ロックに色を添えます。
しかしジミ・ヘンドリックスに遡ること約2年前にジョン・レノンはフィードバック奏法を録音。
それが「アイ・フィール・ファイン」のイントロのサウンドです。
ジョン・レノンはこのとき元祖エレクトリック・アコースティック・ギターでフィードバックさせます。
Gibson J-160Eと呼ばれるギターです。
このギターはGibson社がビートルズのためにブラッシュアップしていった銘器。
アコースティック・ギターの筐体なのですが、実は「フィードバックしないように」設計されています。
ビートルズは大会場でプレイするようになり大音量でもハウリングしないギターとして設計したのです。
それでもギター・アンプの出力を上げるとどうしてもフィードバックが起きてしまいます。
これはアコースティック・ギターの筐体であることの宿命でしょう。
さらにこの録音の際にはポール・マッカートニーがベースでA(ラ)音を弾きます。
その音をジョンのJ-160Eのサウンド・ホールが「拾う」ことでよりフィードバックしやすくしたのです。
録音トラブルではなく、あくまでも人為的にこの音を欲しがったという真相であります。
ビートルズ、そしてジョン・レノンのサウンドへの追求心が結晶した歴史的な録音でしょう。
ジョン・レノンも「ジミ・ヘンドリックスやザ・フーよりオレが先だった」とPLAYBOY誌に語っています。
ふたりは相思相愛の仲
のろけまくる主人公
Baby says she's mine you know
She tells me all the time you know
She said so
I'm in love with her and I feel fine
出典: アイ・フィール・ファイン/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
主人公は幸せの絶頂のようです。
歌詞を和訳して解説いたします。
「あの娘が私はあなたのものよというんだ
分かるだろ
どんな時もあの娘は僕にそういうんだ
分かるだろ
あの娘がそういったよ
僕はあの娘に恋しているよ
気分がいいね」
このふたりは相思相愛の仲です。
主人公ののろけまくりもすごいのですが、よく読むと彼女もまた主人公にぞっこんになっています。
「アイ・フィール・ファイン」はタイトルのままにどこまでも気分のよさで浮かれまくるのです。
何か大きなメッセージというものはまるでありません。
あえて書くとしたら順調な恋愛が人生にもたらす喜びの貴重さというくらいでしょうか。
それでも「アイ・フィール・ファイン」の歌詞には大きな価値があります。
青春期の恋の喜びを極めて先鋭的なロック・サウンドに乗せて魅せたのです。