ここで冒頭でいっていた他者比較が挙がってきます。
歌詞にある「青」とはまさに自分以外が勝ってみえる状況を指しているのではないでしょうか。
自分が好きだったあらゆるものが、好きだけでは考えられなくなる。
誰かより優れていないといけない、何かを成し遂げないと「好き」とはいえない。
集団生活で形成されていった固定観念に縛りつけられている状況が想起できます。
その中で、心にあるのは歌詞6行目にあるような醜い自分。
人や物を1つの面だけで判断して、「自分よりは劣っている」などと卑下するのです。
それが良くないことだと分かっていても、そうしていないと自分が保てない。
自分を守るために必死に作り上げた正義は、実は曲がり切っているのかもしれません。
飽和した想いの先に
自分との対峙
ショーウィンドウ伝うアメがかわき
やがてやみ上がってしまう前に
USBにそっと 閉まっておくよ
いつかあの日の僕、愛してね。
誤魔化してはアメのせいに
少しゼロがさみしくなった
君はもう二度と戻らない 戻れない 帰れないよ
出典: アメヲマツ、/作詞:美波 作曲:美波
この楽曲で謳われている「アメ」とは「自分自身との問いかけ」ではないでしょうか。
これまでに書き殴ってきた歌詞も吐き出した言葉も結局は自分への訴え。
それすらも出来なくなってしまった先こそが「乾いた世界」だといっているのです。
しかし、「アメ」を降らせることで自分を守り続けていることも事実。
本心で生きた自分を、全てを曝け出した自分をいつの日か愛せるようにと願っています。
歌詞6行目で述べられている「ゼロ」とは憂いに飲み込まれることも無かった過去の自分。
あの日の自分にはなれないという不可逆的な諦念と無力感が伝わってきます。
何かに戻るのではなく、何かに変わる。
言葉にするだけなら簡単ですが、実際にはそう容易なものではないでしょう。
後悔と覚悟
はやく
はやく
はやくしなきゃ
こんな
になるまで
息継ぎ我慢してた事
邪魔するスクリーンセーバー
絶対忘れたくない。
出典: アメヲマツ、/作詞:美波 作曲:美波
自分がボロボロになっていることを、気付かないふりをしたまま生きてきたのです。
本当はとうの前から無理をしていたことは知っていたといっています。
歌詞7行目にある単語は、本来コンピュータのディスプレイを保護するための機能です。
ここでは、本当の自分を曝け出さないようにしていたことを比喩しているのだと解釈します。
誰にも頼れず、厳密にいえば誰にも頼ろうとしなかった自分のまま、必死に足掻いてきた。
何度も流した敗北の涙と、煩わしいほどに囁きかけてきたもう1人の自分。
そんな日々を絶対に報ってみせるという強い意思が描かれています。
そしてその裏腹には、この過去をいつまででも心に刻んでやるという覚悟もあるのでしょう。
美波の楽曲には、壊れそうなほどの弱さと這い上がる貪欲な強さが内包しています。
雨を待った先で
何にもなれない自分だからこそ
明日
ファインダー越しが 曇っていたら
そっと笑い掛けてくれないか
ピントが合うように ブレないように
いつか届くといいなこのリリック
比べすぎた
青くて仕方なかったんだ
拙い言葉税で魅せようとした
脳内ヒエラルキーもう
出典: アメヲマツ、/作詞:美波 作曲:美波
いつか自分自身が前を向けるように残したメッセージ。
歌詞の後半で述べられているのは、膨れ上がった比較の数々です。
末尾にある「ヒエラルキー」とは、階層組織や身分社会を形容する言葉です。
あの日の号哭から生まれた感情が、想いがいつか芽を出す日まで。
強い決心の先にあったのは、ただひたすらに自分に願いかけることだったのでしょう。
何者でもない自分だからこそ、もう1度だけ愛してあげたい。
私たちにとって、自分に嫌われてしまうことは、最も苦しくて辛いことなのかもしれません。
すぐには変われないけれど
オヤスミナサイしようよ
それが不確かでもずっと僕ら
臆病と待ち続けてんだ
針は僕をおい続けた
君は僕の隣の数字で
待ってくれるよ な
メイムでいいな
やっぱ今日もダメな僕だな
抓っても滲むだけだろう
かわいたアメ待ち続けていた
出典: アメヲマツ、/作詞:美波 作曲:美波
「迷夢」とは湧き上がってくるとりとめのない思考を意味します。
フッと現れる心の迷いに揺さぶられ、あれやこれやと考え悩む日々。
そんな毎日の中で、いつか解放される日を想い描いているのでしょう。
それは、弱く、今にも崩れそうな自分のままなのです。
楽曲の中にはネガティブから最後はポジティブに変容して締めくくられるケースも度々。
しかしながら、この楽曲は冒頭の心情から何も変わらないまま終わります。
ここに人間のすぐには変われない難しさや憂う想いの粘り気を感じられるのです。
それほどに、自身の本当の想いを書き殴っていると捉えることができる楽曲。
最後まで無力で何もできない自分が描かれています。
それでも、その中にある目は、静かな強さを抱いて未来を見つめているのです。