恋人と死別した女性
この曲にはどんなストーリーがあるのでしょうか?
まず、主人公は女性だと考えられます。
根拠は、歌詞に登場する呼びかけです。
相手への呼びかけは「貴方」。
これは主に男性に向けた呼びかけに使う漢字です。
女性に呼びかける場合は「貴女」と表記します。
次に、主人公は恋人と死別しているかもしれません。
それも、死別からあまり時間が経っていないようです。
時間経過と死別の根拠は、これから見ていく歌詞の中にあります。
孤独な部屋
沈んだ気分
片付いた部屋が温かくて 曇り空の外コントラスト
出典: あおぞら作詞/椎名林檎: 作曲:椎名林檎
歌は部屋の風景描写から始まります。
「コントラスト」は、色合いがまったく違う2つを対比する表現です。
直前の歌詞で、部屋は「温かい」ことが示されています。
この「温」という漢字は、温度と同時に心理的な温かさも意味するものです。
「温もり」もこの字を使います。
単純に温度が高いことを意味するなら、「暖」でも良いはず。
ここであえてこの字が用いられることで、主人公の想いが暗示されています。
主人公の女性は、恋人の遺品整理をしているのではないでしょうか?
モノが少なすぎる部屋は、時に寒々しい印象を与えます。
人によっては、「散らかっている方が生活感があって好き」と感じるかもしれません。
しかしここでは、整った部屋に温もりを感じています。
考えられる理由は、恋人の遺品を片付けたからです。
単純に同居していた恋人と別れるのであれば、相手の持ち物は家からなくなります。
モノが減るので、それも部屋が片付く要因にはなるでしょう。
しかし、モノが減った室内に温もりを感じられるかというと疑問です。
むしろ、空いたスペースが破局を見せつけてきて辛くなるのではないでしょうか?
対して、恋人が亡くなってしまったことによる別れは違います。
同居していたのであれば、恋人の持ち物を残すか、捨てるか決められるのです。
恋人の持ち物には、思い出をよみがえらせてくれる温もりがあるでしょう。
ここから、部屋に温もりがあると感じているのではと想像できます。
さて、コントラストの話に戻ります。
ここで対比されているのは、温もりのある室内と「外」です。
つまり、曇天の屋外は寒いのでしょう。
独りで居るのに慣れないまま
ジャニスを聴いているセンチメンタル
出典: あおぞら作詞/椎名林檎: 作曲:椎名林檎
主人公の女性は、1人に不慣れな様子です。
しかも「1人」ではなく「独り」と書かれていることもポイント。
主人公の感じる孤独が強調されています。
ここから、恋人が亡くなって日が経っていないことが読み取れます。
「ジャニス」って誰?
上の歌詞に「ジャニス」というキーワードが登場しました。
ジャニスはアメリカの歌手の名前です。
ジャニス・イアンは、アメリカ・ニューヨーク州出身のシンガーソングライター。東欧ユダヤ系出身。1966年、「ソサエティーズ・チャイルド(Society's Child)」でレコードデビュー。人種差別批判を歌った衝撃的な内容とともに、未だ10代の天才少女として騒がれる。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャニス・イアン
主人公はジャニス・イアンの曲を聞いて、感傷に浸っているようです。
この時、主人公はどんな曲を聞いていたのでしょうか?
少し調べると、想像を膨らませることができます。
ジャニスは日本でも大人気の歌手です。
彼女のリリースしたアルバムの中に、「愛の余韻」という題のものがあります。
収録曲の中には、同名の「愛の余韻」の他に「恋は盲目」というものも。
恋に夢中になると周りが見えなくなることを意味した、有名なことわざです。
恋のただなかにいる時は、自分が盲目になっていることに気づきません。
交際が長きにわたり、気持ちが落ち着いてきてから。
あるいは、別れた後になって、「あの時はどうかしていた」と気づくものです。
主人公はこれらの曲で、過去を回想しているのではないでしょうか?
恋人と過ごした幸せを客観的にとらえようとしているのかもしれません。
「貴方」からのメッセージ1
此の世で一番輝いている人は
努力しているって教えてくれたね
出典: あおぞら作詞/椎名林檎: 作曲:椎名林檎
ここで、回想はより具体的な内容にシフトします。
恋人が与えてくれた、新たなものの見方だったのでしょう。
世間では、結果を出した人が脚光を浴びる傾向があります。
しかしそれらの成功者は、結果を出すまでに必ず努力と我慢を重ねているものです。
見方によっては、努力している間がいちばんの頑張り時。
それを「輝く」と表現したのかもしれません。