『Chit-Chit-Chat』の舞台は深夜11時、東京都内の繁華街から始まります。
皆が心身をすり減らしつつもウィークデイを生き延びた、その見返りを求めて彷徨う夜の喧騒。
多忙の中、大切な人と過ごす時間を取ることのできない主人公は思います。
「早くあの人に会いたいな」
しかし今宵も彼の仕事は終わりません。
「君はどこから来てどこに向かうの?」
悪い癖だな、と思いながらもそこにいるはずのない君を目で追いかけてしまいます。
化粧を落としてヒトに戻ろう
口の中に溜めた愚痴
建前のパテを塗り
剥げてきた化粧を落として
ヒトに戻ろう
出典: Chit-Chit-Chat/作詞:SKY-HI 作曲:SKY-HI,UTA
大人になるとなぜ人は本音をさらけ出すことができなくなってしまうのでしょう?
それは対人関係を円滑に回そうとする仕組みを社会全体で構築してきた結果です。
誰もが息苦しさを感じながらも消極的加担して作り上げてしまったシステム。
そこにSKY-HIは意識的に問いかけます。
「本当にそのままでいいの?」
コミュニケーションの本質は互いの気持ちを正確に伝達することです。
本音を覆い隠し建前だけをいくら並べ立てても永遠に気持ちが伝わることはありません。
だから機能不全に陥る前に人間の本質に立ち返ろう、と問いかけるのです。
もう少し話をしよう
感じる君の息遣い
Chit-Chit-Chat まだ眠らないで
明日も Keep in touch さよならじゃないね
まだそこにいて もうちょっと聞いて
Okay I'll be there
You're my intimate
出典: Chit-Chit-Chat/作詞:SKY-HI 作曲:SKY-HI,UTA
本当は君と向かい合って朝まで語り合いたい...。
しかし『Chit-Chit-Chat』の中で主人公は電話でしか大切な人と会話をすることができません。
“keep in touch”は“連絡を取り合う”を意味する慣用句です。
対話の本質は相互に気持ちを理解することだと前述しました。
目の前にいない相手との対話は視覚・嗅覚・触覚を奪われた状態で行われます。
聴覚のみで懸命に意思の疎通を試みる主人公。
相手の息遣い、声の調子など耳で得られる情報は意外と多いのです。
「もう眠いの?」
「もう少し話そうよ」
「君は僕の大切な人なんだ」
「おやすみ...」
電話を切った後、主人公は本音を伝えあうって難しいな、と1人余韻に浸かるのでしょう。
しかし2人の間にはLINEやメールでは味わうことのできない“何か”が共有されたと感じます。
だから明日も明後日も、きっとこんな会話を続けるのです。
信頼関係を構築するために
あんま聞かないで
やっぱやめないで
面倒くさがらないで
Who I am, You are, 話足りない
たまにしっかり…たまにはだらしない
笑えないレベルの失敗でも笑い飛ばす次第でさ
出典: Chit-Chit-Chat/作詞:SKY-HI 作曲:SKY-HI,UTA
心を開いて本当の気持ちを打ち明ける。
言葉にすると簡単そうですが実践するのは難しいことです。
本当の自分をさらけ出すことに私たち現代人は抵抗を感じてしまうようになってしまいました。
しかし主人公は電話越しに何度でも語りかけるのです。
「勇気を出して、全部話してごらん」
「恥ずかしかったら一緒に笑おうよ」
「僕だって恥ずかしいんだよ」
対話の積み重ねは互いの信頼関係の構築に欠かすことができないプロセスです。
SKY-HIは本当は内気な少年だったのかもしれません。
ラップの持つ高揚感は吃音患者にも効果があるという研究が進んでいるといわれています。
事実としてヒップホップで自閉症を克服したラッパーは世界中に存在するのです。
大切なことだから
全部喋っちゃうよ
人は一人じゃないって
聞き飽きたよもううるさいって
輪を乱しちゃいけないって?
お説教終わる前にお会計
スクールカースト、マウント、ハラスメント
人と関わる度に腫らす目
人生はいたずらに僕達を急かす GAME
カッコつけたいあの頃の自分
でもカッコつかずにまた沈む気分
括弧つけ笑って生きる
瘡蓋が剥がされれば傷に沁みる
出典: Chit-Chit-Chat/作詞:SKY-HI 作曲:SKY-HI,UTA
SKY-HIは「自分のアタマで物事を考えることができる人」です。
誰もが抱いているであろう社会への違和感、多くの方が生きづらさを感じてしまう空気感。
そのことに蓋をすることができず全部言葉にしてしまう人なのです。
日本は歴史の節目ごとに大きな社会的変革を経験してきました。
高度経済成長による核家族化の促進、人口減少による地方の過疎。
そしてテクノロジーの進化。
こうした社会構造の変化はいつか私たちから共同体という概念を奪い去ってしまいます。
その先に待っているのは建前ばかりがはびこる世の中です。
(笑)や“www”で他人を笑う人たちがいる世界。
そんな空気をSKY-HIは言葉で打ち消そうとしています。
この長いバースで彼が言いたいことは1つだけです。
「傷つくことを恐れないで」