斬新なタイトル
アルファベットにはどんな意味があるのか?
尾崎世界観にしか表現できない独自のニュアンスが光る楽曲「ABCDC」。
2013年3月9日にクリープハイプが発売したアルバム「死ぬまで一生愛されると思ってたよ」に収録されています。
初めてタイトルを見たとき、そのアルファベットの並びに「どういう意味?」と疑問を持つことでしょう。
そこに尾崎世界観のセンスが感じられます。
「ABCDC」…。
要するに「Aメロ→Bメロ→Cメロ(サビ)…」という具合にこの楽曲が展開していくことを表しているのです。
では、なぜそんなタイトルにしたのか?
おそらく「歌にするまでもない感情を綴った曲だから」という意味を込めていると筆者は解釈しました。
これだけ聞くと何のことなのかピンと来ないですね。
歌詞を深く読み解くことで、些細な感情をも大切にする尾崎世界観の表現が見えてきますよ。
聴き手に届けたい
「もう一度聴きたい!」と感じる楽曲のみを収録
「死ぬまで一生愛されると思ってたよ」は「伝えること」を目的としたアルバムです。
アーティストであれば誰しも「人にこれを伝えたい!」というテーマを持っているはず。
このアルバムではそれが相手に「届くこと」を重視し、聴き手の立場を考えて制作されているのです。
尾崎世界観がメンバーに聴かせた際に「もう一度聴きたい!」と感じた楽曲のみを収録。
だからこそ、聴き手に届きやすい「メロディ」「言葉」「テーマ」となっています。
聴き手あってこその音楽という考え方があるのですね。
今回ご紹介する「ABCDC」も、もちろんその一つ。
尾崎世界観が「届けたい」と思う歌にはどんな意味が込められているのでしょうか?
一緒に読み解いていきましょう。
「君」の記憶が蘇る
「君」を思い返す
眠れない夜の事
Aメロにもならない人生ぶらさげて
瞼の中ではね あの頃の君が笑ってる
出典: ABCDC/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
まずAメロから見ていきましょう。
夜、「君」のことを思い浮かべて眠れなくなっているよう。
過去形になっていることから、既に別れてしまったことが読み取れます。
そんな人生における一場面を「Aメロ」にするまでもないと歌っているのです。
面白いですね。
「曲にするほどダイナミックな経験ではない」という想いを、飾ることなくそのまま綴っています。
「悩み」と呼ぶほどではないけど何故か胸につっかえてしまう…。
そんな何とも言えないわだかまりが溜まるときって、誰しもあるのではないでしょうか?
特別じゃないけど
帰れない夜の事
昼ドラにもならない恋愛ぶらさげて
瘡蓋の中にはね
あの頃の傷が眠ってる
出典: ABCDC/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
こちらはAメロの後半です。
先ほど登場した「君」との思い出が脳裏に焼き付いているのでしょう。
「昼ドラ」では「もっと見たい」と思うような密度の濃い恋愛が繰り広げられます。
「昼ドラにもならない」ということは「人に話すほど大した恋愛ではない」という意味。
ありきたりな、よくある恋愛。
でも、自分にとっては忘れられない思い出。
カッコつけて歌にするほどの内容ではなくても、自分にとっては歌にしたくなるほど鮮明な記憶なのでしょう。
飾らないBメロ
何も思いつかないからいい加減な事言って
とりあえずこれはBメロにして
その先へ進む
出典: ABCDC/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
恋愛ソングといえばAメロ→Bメロ→Cメロ(サビ)という順番に段々と内容が盛り上がっていきます。
Bメロは、Aメロでの落ち着きからサビへの盛り上がりを繋げる重要な役割。
いわば着火剤のような部分なのです。
主に「変化」や「動機づけ」「兆し」などといった要素が歌われます。
ところが、ここで歌いたい恋愛は起承転結のしっかりした派手なものではないのでしょう。
人の興味を引くような内容が思いつかない。
でも、無理に飾るのも違う気がする。
そうして、作詞する側の視点でありのままの心を綴ることで表現しているのです。