名曲「さざんかの宿」
この曲が発表された年は、若者の曲全盛期です。
あみん、薬師丸ひろ子、岩崎宏美、近藤真彦、サザンオールスターズ。
数え上げればきりのないほど若者向けの歌手ばかりです。
その中でも異彩を放っていたのが大川栄策でした。
シンプルな古賀メロディに切ない歌詞。
そう、「さざんかの宿」はこの時代にヒットしたのです。
ヒット曲とは時代の少し先にあることがこの曲を知るとよくわかります。
その辺の秘密も時代背景とともに解説してゆきましょう。
さざんかの宿1番
演歌の曲構成は大概3番まで続きます。
「さざんかの宿」もさすが古賀メロディの正統派で、セオリー通りの3部構成です。
珍しく男性からの視点で書かれた歌詞は、退廃的でやるせないムード満点です。
ただ、男性主体かどうかには色々疑問視する声も上がっています。
男女どちらの視点でも共感できるようなあいまいさ。
これもヒットの要因なのでしょう。
今回は男性主体の解釈で進めたいと思います。
1番Aメロ
くもりガラスを手で拭いて
あなた明日(あした)が見えますか
出典: さざんかの宿/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
1番は密会の宿に到着したシーンです。
部屋に入り、窓際で女性が外を眺めようとしています。
くもった窓を拭いてみる。
くもりガラスに気づかずに。
間違いに気づき笑顔で振り向く女性。
そんな仕草を見て、男性はふと思います。
まるで自分たちの未来の様だ。
まるで先のことが見えない。
くもりガラスはそんな二人を表わしているようです。
1番Bメロ
愛しても 愛しても
ああ 他人(ひと)の妻
出典: さざんかの宿/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
いくら好きになっても相手の女性は既婚者。
不倫。
今でこそ一般的になりましたが、この当時はまだ浸透していませんでした。
Bメロ2行の歌詞がこの曲のイメージの決め手です。
美しくも儚い恋。
退廃的なムードが漂います。
1番サビ
赤く咲いても冬の花
咲いてさびしい さざんかの宿
出典: さざんかの宿/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
赤は情熱の色。
冬は寒々とした厳しい環境。
つまり、冬に咲く赤い花とは、道ならぬ愛欲に燃える男女を表しています。
燃えれば燃えるほど抜け出せないのが不倫。
“咲いて寂しい”。
二人の現実はまさにさざんか。
自虐的なまでに二人に似合いの宿です。
さざんかの宿2番
2番のシーンは二人の愛を確かめ合うシーンとなります。
女性の歌ではないかという意見では、指輪という言葉を指摘しています。
しかし、かむという行為はあまり男性的ではないようです。
ということで、2番も男性視点と解釈して進めましょう。