揺れる残像ですら手を出す勇気がなかった
海に浮かんだ月 掬いあげる勇気すらなかった
軽く握りしめる たったそれだけで消えてしまう気がして
出典: 海中の月を掬う/作詞:そらる 作曲:そらる
深海を彷徨い続けていると、稀に差し込む光が届くところまで行くことがあるのでしょう。
そうして見えた微かな光ですら、波を立てて見えなくなる恐怖に襲われて躊躇してしまう。
その勇気すら持ち合わせていないほどに、主人公の心は冷たく固まっているのです。
想いが深すぎて、長い間想いすぎて、実際会えたとしても何も言えないかもしれない。
その勇気すら出てこないかもしれない、という内面からくる恐怖にも潰されてしまっています。
誰にも壊されたくない「君」を誰よりも大切にしたくて、会いたくて、でも会えなくて。
会ったとしても何も言えない。そんな自分自身の想いにすら勝てない状況は、さらに深みへと誘います。
深海の、さらに深いところへと。
タラレバではもう遅かった
はかなげに揺れてる 薄れる記憶と微笑む君は
今更手を伸ばすけど 残酷に綺麗で 遠すぎて
出典: 海中の月を掬う/作詞:そらる 作曲:そらる
「あの時こうしていれば」
そんな後悔も、主人公を追い詰める要因のひとつとなっています。
しかし、もうハッキリと思い出すこともできていません。
今、主人公を蝕んでいるもの。
それは、形もはっきりしない後悔という大きな闇です。
そんな闇が主人公をさらなる深みへと誘い、遠いところで『君』が輝いている状況です。
今更謝ってもどうしようもなく、空虚な謝罪に意味がないこともわかっている。
それなのに、「君」は綺麗なのです。
主人公の視界からどんどん遠く離れて行く「君」はいつまでも綺麗で、だからこそ闇が深くなります。
様々な想いに押しつぶされ続ける中で、最後に願うこと。
それが最後のサビで語られます。
想いだけ届けばいい
ねえ 僕はここで月を見上げて歌を歌おう
いつか君に ただ君にだけ 届いて欲しい
約束はもういらないから 僕を照らしていて欲しい
裸足のままで 忘れぬままで 朝の匂いの方へ
ざわめく波の音 ふと見下ろした揺蕩う水面に
淡く光る月が微笑んでいた そんな気がした
出典: 海中の月を掬う/作詞:そらる 作曲:そらる
触れることができないのなら、せめてこの想いだけ届いて欲しい。
もし届いていなくても、主人公を照らし続けて欲しい。それが最後の願いでした。
約束でもなんでもなく、ただ一方的な願いです。
きっと叶うこともないだろうことはわかっていても、願わずにはいられません。
そんな主人公に救いの手が差し伸べられることはありませんでした。
しかし最後に、見間違えかもしれないけれど微笑み返しを見た気がしたのです。
想いが届いたのかもしれない。通じたのかもしれない。そんな風に見えてしまいました。
そう思っていないと、もはや自分自身を保つこともできないほどに深みへと沈みゆく主人公。
いつの日か、後悔から解き放たれて浮上するときがくるのでしょうか?
この歌詞ではそこまで語られていません。
そのため憶測になってしまいますが、自分の殻に閉じこもっている主人公は恐らく浮上できないと思います。
このまま自分自身の中で戦い続けるでしょう。
何かのきっかけがあれば、あるいは…というところまで憶測するのが限界かと思います。
救いのない結末ですが、そこまで人を想い続けるという一途な想いに心が動かされました。
これでこの歌詞の考察を終わります。
『ワンダー』収録曲のミュージックビデオ
今回ご紹介した『海中の月を掬う』が収録されているアルバム『ワンダー』。
冒頭でご説明した通り、名曲揃いで全曲聴き終わった頃には涙腺の崩壊は必至です。
そんなアルバムの中で、公式に公開されているミュージックビデオをご紹介します。
ここで挙げた3曲はそれぞれ異なる雰囲気を持っていて、音楽の幅の広さを感じられることでしょう。
そらるさんは、楽曲だけでなくミュージックビデオにも熱を注がれています。
映像の展開も合わせてご覧ください!
銀の祈誓
アルバムの1曲目に収録された、オープニングを飾る『銀の祈誓』。
空間系のエフェクトが掛かった音色で物悲しく響くアルペジオから始まるイントロ。
そのあとのドラムインから一気に勢いを爆発させる、叫びにも似た展開は必聴です。
全体に横たわる切なさを纏う雰囲気は、そらるさんならではの世界観になっています。