君が願ってるよりも 君はもう僕の全部で
どうぞ お望みとあらば お好きに切り刻んでよ
今ならば 流れる血も全部
その瞳から零れる涙は 落ちるには勿体ないから
意味がなくならないように そのコップに溜めといてよ
それを全部 飲み干して みたいよ
出典: ブレス/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
登場人物は「君」と「僕」。そして、血と涙と感情たち。
野田さんが表現するラブソングにおいて、欠かせない役者がそろっています。
そしてこの歌詞からは、「僕」から「君」への特大の愛が読み取れるでしょう。
ですが、彼は何も出来ないのです。ただ見守るだけです。
感情を表に出せず、触れたくても触れることが出来ないのです。
傷つけてしまうのが怖くて。
それはまるで「シザーハンズ」のよう。
野田洋次郎版「シザーハンズ」
触れたくても触れない
触れたら 壊れてしまいそうで
触れなきゃ 崩れてしまいそうな
君をここで ただ見守るよ
偉大な歴史の一部を遺すように 僕は歌う
出典: ブレス/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
ここまで、抽象的な歌詞が続くとやはり少し分かりづらい。
というわけで、誰かに置き換えて解釈してみようと思います。
そこで選んだのが、ティムバートン監督の映画「シザーハンズ」。
人造人間と少女との愛を描いた心温まるファンタジー映画です。
登場人物の不器用さや不思議な空気感などは、「ブレス」がまとう雰囲気とぴったり。
まだ、見たことない方のために、簡単に説明します。
登場人物は、ジョニー・デップ演じる人造人間「エドワード」。
完成を目前にし、開発者の博士が亡くなってしまったため両手がハサミのまま屋敷に取り残されてしまいます。
気が遠くなるほど孤独な生活を続けるエドワードでしたが、ひょんなことから街で生活することに。
そこで「キム」という少女に恋し、初めて愛を知るんですね。
しかし、両手がハサミなので、愛する人を抱きしめることも出来ないと。
そんな純粋で心優しいエドワードの悲しい運命が心を打つ名作です。
不安定なバランスの二人
触れたら 壊れてしまいそうで
触れなきゃ 崩れてしまいそうな
君をここで ただ見守るよ
万物に渡る定理を遺すように 僕は歌う
出典: ブレス/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
このエドワードを「僕」に置き換えてみると、意外としっくりくるんですねこれが。
ちなみに彼の心臓には大きなハート型のクッキーがあてがわれています。
なので、見た目に反し本当にピュア。
人を愛することを初めて知ったエドワードは、純粋無垢な愛情を心に抱きます。
しかし、伝える術すらわかりません。言葉をあまり持ち合わせていないのです。
だけど両手のハサミが「君」を傷つけることだけは分かります。
結局、君のあるがままをただ見守るだけ。
平静を装いながらも、どうしたらいいか分からないというようなエドワードの心情がこの歌詞の「僕」と重なってきます。
でも彼らにとっては、「君」の存在がこの世界のすべてなんですよね。命さえも喜んで差し出せるくらいの。
こうした空気感が「切ない連鎖」を生み出し、私たちの感情に訴えかけてきます。
「僕」が触れられない本当の理由
ですが、野田さんが描く「僕」も、シザーハンズの「エドワード」も、君を傷つけたくないから触れないのではありません。
本当の理由は自分が傷つきたくないから。ハサミの手を理由にしているだけなんです。
繊細でピュアだからこそ、大切な人と距離を取ってしまうんですね。
映画「シザーハンズ」でも、両手のハサミがきっかけで街の人々に忌み嫌われる存在となってしまうエドワード。
そして、想いを寄せる「キム」と距離を取るシーンが終盤に出てきます。
ただ、野田さんは「僕」にそんな選択はしてほしくないのです。
次の歌詞からは、「エドワード」には出来なかった「僕」の行動と勇気を感じることが出来ます。
かっこいい弱虫
おさがりのキスでも 使い古しの愛してるも
大事にするよと笑った顔の頬に
走った二つの線が僕を呼んでる気がして
触れてしまったんだ
壊れてしまわぬように
ずっとぎゅっと抱きしめた
出典: ブレス/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
ここで「僕」が「君」の涙をきっかけに、ついに彼女を抱きしめます。
涙が呼び起こした衝動的な行動ではありますが、見守るだけだったこれまでとは大きな変化です。
この変化の裏には、野田さんが震災で感じ取ったメッセージが流れていると思います。
「大事な人との一瞬を後悔しないように大切に」と。
触れたら 壊れてしまいそうで
触れなきゃ 崩れてしまいそうな だけど
それでも 僕は手を伸ばすよ
壊れても拾い集めるよ いいだろう
触れなきゃ 今すぐこの手で
触れなきゃ 崩れてしまう前に
君のまるごと全部に 僕は触れたいよ
壊さぬように 崩れぬように 育つように 始まるように
僕は歌う
出典: ブレス/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
野田さんのメッセージを受け取った「僕」は、「君」と悔いのない未来に向けて歩みだす選択をします。
当たり前に来ないかもしれない未来を、大事に大切にしながら。
当たり前に歌いながら。
そういえば、「ブレス」という言葉には、もう一つ意味があるそうですよ。
神からの恩恵。すなわち「祝福」だそうです。