渚のバルコニーで待ってて
やがて朝が
霧のヴェールで二人を包み込むわ
I love you so love you もう離さないで
Umm...あなたを愛してる
出典: 渚のバルコニー/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
ここでサビに回帰します。
またもや、バルコニーで待っていてほしい、という少女の願いが繰り返されます。
この部分は様々な解釈ができる部分です。
注目するのは「待ってて」という言葉。これは歌い出しのサビにも出てきました。
「待ってて」と願う、ということは、男性はまだバルコニーにいないということを意味します。
つまりこの時点では夜明けの海の近くに、二人で佇んでいるのです。
すると、冒頭に見た少女の「企て」はまだ実現していないことがわかります。
男性に、自分が朝日に照らされた姿を見せたい。だからバルコニーで待っていてほしい。
そう願っている段階なのです。
しかし、その「企て」は惜しくも実現しません。
夜明けが来ると、海辺に白い霧が立ちこめます。
そして、その霧が二人の姿を包み込んでいく。
これは、男性が少女を抱きしめていることを比喩しているのではないでしょうか。
そして少女は言うのです。「愛してる」と。
男性をもてあそびたい少女のいたずらな部分。
男性に優しく包まれることに喜びを感じる健気な部分。
少女の持つ二面性がはっきりと表現されているのです。
ただ、少女は本当に「愛してる」と口に出して言ったのでしょうか?
触れない、触れたい
キス、したい。でも、言えない。
海沿いのカーブで
走り過ぎる車数えた
キスしてもいいのよ
黙ってるとこわれそうなの
砂の浮いた道路は
夏に続いてる
出典: 渚のバルコニー/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
二人はバルコニーではなく、海辺に腰掛けています。
何を話すでもなく、ただ海沿いをドライブする車を眺めています。
そして、少女は「キスしてもいい」という言葉を発します。
ただ黙ってるという言葉を見ると、実際には「キスしてもいい」とは口に出していません。
キスしたいけど、キスしてと口にすることができない。
触れたいけど、触れられない。
そんな少女のいじらしさが垣間見えます。
こんないじらしさは「赤いスイートピー」にも見受けられます。
何故知り合った日から半年過ぎても
あなたって手も握らない
出典: 赤いスイートピー/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
手を握ってくれない、ということは「手を握ってほしい」という願いの裏返しです。
手を握りたいけど、こちらからは握れない。でも、向こうからも握ってくれない。
キスしたいけど、キスしたいとは言えない。でも、向こうからキスしてくれない。
あぁ、いじらしい。そして、なんとも可愛らしい。
そして、二人が腰掛けている海辺にも、だんだんと夏の気配が近づいています。
響き渡る愛のベル
渚のバルコニーで待ってて ラベンダーの
夜明けの海が好きなの
そして秘密
I love you so love you ほら愛のベル
Ah...心に響いてる
出典: 渚のバルコニー/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
またサビに回帰します。ラベンダー畑が再び登場します。
ここでも、少女のいじらしい姿が描写されています。
あくまで「好き」なのは夜明けの海である、と少女は言います。
男性には直接「好き」という言葉を伝えません。
でも、少女の心の中には愛の鐘が響き渡っています。
これは、もしかしたら男性の隣にいることで高鳴る心臓の音かもしれません。
前の部分で出てきた「こわれそう」というのは高鳴りすぎた心臓を表しているようにも読めます。
そして秘密…
あくまで「秘密」
きっときっとよ
独りで来てね
指切りしてね
そして秘密…
出典: 渚のバルコニー/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
アウトロの部分です。
コーラスがサビのテーマを繰り返す中で、聖子さんはこの歌詞を歌い上げます。
ここで注目するのは「秘密」という言葉です。
この歌詞の中で、何が「秘密」とされているのでしょうか。
それは、男性に対する「愛の言葉」です。
少女はどうにか男性を翻弄したいと「企て」を巡らせます。
バルコニーから太陽に照らされた自分を見てほしい。
泳ごうよ、と誘われても、その誘いを軽くあしらって距離感を保つ。
好きなのはあくまで夜明けの海であって、男性ではない、と言ってみる。
そんな少女の行為からは、大人の女性として男性と接したいという願いが見えます。
その一方で、男性に優しく抱きしめられて、心が惹かれていく。
キスしてほしい、でもキスしてほしいとは言えない。
その辺りは大人になりきれずに、男性に翻弄される少女がいます。
「愛してる」という告白を「秘密」にしておくことは、少女にとって大きな意味を持ちます。
愛を完全に明かさないことで男性と対等な関係を保とうとしているのです。
大人になりたい少女と、大人になりきれない少女。
ここでも、そんないじらしい少女の姿が描写されているのです。