プロテスト・ソング「MONEY」
バブル経済への序章
浜田省吾といえば「もうひとつの土曜日」などの名バラードを思い浮かべる方も多いでしょう。
一方で彼の特徴的なスタイルといえばプロテスト・ソングです。
現代日本社会の歪みの告発をロックに乗せて歌う浜田省吾の姿に惚れている人はたくさんいます。
中でもバブル経済期に突入する寸前の日本社会を皮肉った「MONEY」は彼の代表曲になりました。
金銭への執着を露骨に剥きだしたかつての日本社会の姿。
「豊かな社会」が社会を勝者と敗者に分かつこと。
誰もが「金」に踊らされていた歪な時期の歌です。
好景気の日本を知らない若い世代が台頭してきました。
彼らがこの歌の滑稽さに何を思うのか知りたくもあります。
一方でこの曲「MONEY」には資本主義社会にとって普遍的な事柄を歌うのです。
いつの時代にも共通する問題を見出すことができるでしょう。
「MONEY」の歌詞を紐解いて異常な好景気に沸いた時代の歪みやその後の社会を振り返ります。
都市と地方の格差
今の方が深刻?
この町のメインストリート 僅か数百メートル
さびれた映画館と バーが5、6軒
ハイスクール出た奴等は 次の朝
バックをかかえて出てゆく
出典: MONEY/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾
舞台は地方の寂れた町です。
「豊かな社会」は大企業が中心になって築いてゆく傾向があり地方の町は取り残されていました。
この構図は現在の方がなお酷くなります。
過疎化した地方の町や「限界集落」の問題に政府も自治体も決め手となる政策を出しません。
都市と地方の格差は広がるばかりです。
東京への一極集中の問題も解消されていません。
昭和の時代からこの構図があったことに改めて驚かされます。
映画館は衰退を極めて消滅寸前。
インターネットの普及で辛うじて娯楽や情報の共有が進みましたが都市部への憧れは消えません。
今の時代の方がより深刻になっている問題です。
勝ち組と負け組
格差の拡大と関係の固着
兄貴は消えちまった 親父のかわりに
油にまみれて 俺を育てた
奴は自分の夢 俺に背負わせて
心ごまかしているのさ
出典: MONEY/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾
中々シビアな境遇です。
浜田省吾自身の物語ではありません。
彼の父は元・特高警察で保守的な人でした。
学生運動に励む浜田省吾を見て「アカ」と罵ります。
それもまた辛い話です。
浜田省吾が描いたような家庭は実際にかなりの数あるはず。
日本という国の基軸が企業社会に移りゆく。
そんな歴史的転換の中で中小企業のブルーワーカーであることは豊かさから取り残される運命でもあります。
とはいえ生活を変えることは容易ではないです。
勝ち組と負け組の「固着」が始まります。
勝ち組が勝ち続け、負け組が負け続ける。
「MONEY」の主人公はそうした硬直した状態から抜け出ようと必死になるのです。
オレは違う、ここから抜け出てやる。
彼を支える原動力の背景はシビアな家庭環境にありました。
終わりなき欲望
今も変わらない構造
Money Money makes him crazy
Money Money changes everything
いつか奴等の 足元に BIG MONEY
叩きつけてやる
出典: MONEY/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾
若い世代の中にもこの有名なサビのメロディに聴き覚えのある方はいらっしゃるはずです。
主人公が啖呵を切る姿と浜田省吾の歌唱が見事なマッチングをしています。
「MONEY」が収められたアルバム「DOWN BY THE MAINSTREET」は1984年の作品。
すべての曲の主人公が地方都市の10代の少年です。
華々しい繁栄の恩恵をあまり受けることのなかった人々。
バブル経済期ですら恩恵に与った社会層とあまりいい影響を受けなかった社会層とに分かれていました。
バブル経済期前夜の日本ですとその傾向はもっと強かったはずです。
行き過ぎた資本主義の中で「MONEY」への終わりなき欲望が人々を狂わせてゆくことを告発します。
今でもこの状況はまったく変わっていないはずです。