「あんたへ」amazarashi
「あんたへ」は2013年にリリースされたミニアルバム『あんたへ』の表題曲。ライブで先に披露された曲が後から音源化された形です。
amazarashiには珍しいストレートな応援歌になっていることが特徴です。
「あんたへ」MV
力強く歌い上げる秋田ひろむが、油絵タッチで描かれています。都市を生きる一人暮らしのサラリーマンは満員電車に揺られ、虚ろな目で遠くを眺めます。高層ビル群に見るのは、崩れていく幼き日の夢。
都会に憧れたかつての少年は、疲れのあまり精神がボロボロになっていきます。
サラリーマンは内的世界で少年の自分と出会い、積み木のように積み重ねてきた過去を思い出します。
孤独な都市の生活で自分を支えるのは、他の誰でもなく自分自身なんだと熱く主張するMVです。素敵じゃないですか?
あんたへ 歌詞
はやく 涙拭けよ 笑い飛ばそう 僕らの過去
行くあても帰る場所もないから 頭の中に僕の居場所を作った
そこで笑っている父や母や恋人が
かつての面影だと気付いて途方にくれる
くだらねぇや と強がって壊した そしたら 意味もなく涙が溢れた
工業排水を垂れ流して汚れつちまつた
裏通りのどぶ川みたいな色の涙です
出典: あんたへ / 作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
この「汚れつちまつた」という書き方は明らかに中原中也を意識していますよね。涙は「悲しみ」を象徴的に表し、現代的な「汚れつちまつた悲しみに……」を歌おうとしているのでしょう。
頭ではわかっているけれど…
何があんたの幸せとか 正解と不正解の境界線だとか
結局決めるのはあんた自身で 自分で自分の首を絞める事はないよ
駄目な自分を愛するために まず必要なのは自分を許してやる事
必死に生きるのは得てして無様だから 人に笑われても気にすんな
明日は どうなるんだ 答えてみろよ神様
出典: あんたへ / 作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
「あんた」に滔々と語り始める秋田ひろむ。幸せとか正解とかは自分で決められるんだから、あんまり深く考えすぎて苦しまないでと、ストレートに応援しているように見えますが…。
そういうことは頭では分かっているんだけど、世の中そんなに簡単じゃないんだ。神よ教えてくれ、明日はどうなるんだ。
冷静さと切実さが交互に表れ、サビ前の一行に想いが凝縮されています。「あんた」とはリスナーを指すとともに、自分自身を指す言葉なのでしょう。こうやって思えばもっと楽に生きられるんだぜ、と。
当事者としての秋田ひろむ
はやく 涙拭けよ 笑い飛ばそう 僕らの過去
そうだろう 今辛いのは 戦ってるから 逃げないから
そんな あんたを 責めることができる奴なんてどこにも いないんだぜ
出典: あんたへ / 作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
「あんた」の中に秋田ひろむ自身が入っていると解釈すれば、この曲のニュアンスは変わってきますよね。
よくいるじゃないですか。J-POPとかで、手放しに人を励まし続けるやつ。無茶言うなそんなに頑張れるかと。お前はどの立場から言っているんだと。
この曲で苦しんでいるのはリスナーと、秋田ひろむ自身なのです。完全に当事者の立場です。だからこそ言葉に魂がこもります。泣いているのは「僕ら」、つまり「秋田ひろむとリスナー」ですから。
amazarashiが「音楽好きなら誰でも知ってるバンド」になったのは、2015年あたりからです。それまで彼らは実力はあるのに芽が出ないバンドとして戦い続けてきました。
2013年、逃げずに戦い続けた彼らはリスナーだけでなく、自分自身を鼓舞する歌として「あんたへ」をリリースしたのです。
今日は何にもやる気が起きねぇから
一日中テレビばっかり見ていたんだけれど
「この人達はなんて幸せそうなんだ」
とか考え出したら急に笑えなくなった
眠れない夜のもてあました時間は 今日までの人生の反省会
頭を掻き毟って転げた 日々だって無駄にはならねぇよ
未来は 僕自身が 切り開いてみせるよ神様
出典: あんたへ / 作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ