さて、それでは逃げ水の歌詞を紐解いていきたいと思います。

夏が醒めていく

日差しに切り取られた
市営球場から聴こえて来る
ひと夏の熱狂は
どれくらい風が吹けば醒めてくのか?

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平

冒頭のフレーズ。夏の風物詩でもある野球や球場の風景が目に浮かびます。

降り注ぐ夏の日差しの中で、多くの声が上がる熱狂的なシーン。

待ち望む人の多いであろうこの季節と空気ですが、まるでどこか遠くから見つめているよう。

一夏の夢のような熱さが醒めていくのをどこか客観的に見ながら待っているような雰囲気です。

自分の声が 他人のように響くよ
客観的すぎるのだろう
いつの日からか 僕は大人になって
走らなくなった

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平

あの夏の日、どこか遠くから見つめている、そんな情景を思い返しているよう。

走り抜けていける熱さを持っていたあの時の自分といつの間にか大人になっていた自分。

そんな自分を思い返し、どこか俯瞰的に、そして歌詞の通り客観的に見ている自分が浮かんでいるのでしょう。

透明感のある綺麗な曲でありながらも、少し寂しげな雰囲気を感じます。

今ではもう戻っては来ないあの頃の目の前のことに熱中できていた自分。

若かりし頃にあった情熱が今では冷めてしまったということを実感しているようです。

主人公は昔の自分を思い返しながら、感傷に浸っているのでしょう。

消えていくあの夢

ミラージュ 遠くから見たとき
道の向こう側に 水たまりがあったんだ
近づいたらふいに 消えてしまった
目指して来たのに どこへ行った?あの夢

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平

消えてしまった「水たまり」とはミラージュのこと、そして「逃げ水」のことを指すのでしょう。

逃げ水とはそこにはない蜃気楼のこと、いつかは消えてしまう夢や幻想。

どこからか見えていた「夢」、そこにあるように見えていたもの、それでも実はそこになかったもの。

夢や希望のある場所へと目指して走ってきたのに、気付いたら消えてしまったというぽっかりと空いた胸の内を感じるよう。

手を伸ばせば届く場所にあると思っていたものがそこにはなかった。

キュッと心臓が締め付けられるような切なさもそこにはきっとあるのでしょう。

歌詞の冒頭において、球場から聞こえてきた熱狂を耳にした主人公。

主人公は若者たちの夢を追いかける姿に出会ったことによって、自分の夢について思い出したのではないでしょうか。

そして、今ではその夢も「逃げ水」のようにどんどんと遠ざかって消えてしまった。

夏という季節はあっという間に過ぎ去ってしまうものです。

そんな儚い季節と、届かない夢のイメージを重ね合わせているのではないでしょうか。

夢を追いかけること、そして物事が過ぎ去っていくことの儚さを感じる表現となっています。

夏を思い出させるまばゆい景色

芝生のスプリンクラー
過ぎるその季節を止めようとする
半袖を着た女は
カーディガンをいつ肩に羽織るのか?

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平

この歌詞に出てくるスプリンクラーとは、散水をするための装置のことです。

芝生という歌詞と、先ほどの歌詞に球場という言葉が入っていることから恐らく同様に球場のことを指すはず。

スプリンクラーの用途は、砂埃が舞うのを防ぐためや芝生などへの水撒きなどがあります。

その他に「暑さを抑えるための散水」として利用されるのです。

暑さという夏特有の空気を冷ましていく、そんな様子を表しています。

 

そして夏が過ぎていく様を想像させる部分。

筆者は秋元康さんの独特の言葉の選び方が、思わず唸ってしまうくらいに好きだったりします…!

夏が終わっていく様を、情景が浮かぶような比喩を用いる歌詞。

情景だけではなく、空気感を肌で思い出すことのできるそんなフレーズですね。

やりたいことは いつもいっぱいあったのに
できない理由 探していた
君と出会って 青春時代のように
夢中になれたよ

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平

どこか外から見ているような、寂しげでもある歌詞。

やりたいことはあるけれど、「時間がない」「やっぱりいいかな」なんて理由をつける。

そうしてなんとなくやりたいことをおざなりにしてきたこと、ありませんか?

割り切ったような大人ならではの感情。もしくは少し躊躇いがちなそんな自分自身の感情。

けれどそんな自分は「君」と出会うことによって、変わっていったのでしょう。

夢中になることができた、明るい道筋や彼女の笑顔が浮かぶようです。

主人公にとって「君」との出会いというものが、人生における希望となっていることが分かります。

今までどこか言い訳をして避けてきた数々のやりたいこと。

それらはもしかしたら、時間や面倒臭さを理由にやめてしまう程度のやりたいことだったのではないでしょうか。

けれど、「君」との出会いによって、主人公は自分が本当に夢中になれることを見つけることができたのです。

嘘でも真実でもどちらでもいい

ミラージュ 僕が見ているもの
それが真実でも幻でも構わない
今 確かに 僕の目に映るなら
逃げてしまっても 追いかけたい この恋

出典: 逃げ水/作詞:秋元康 作曲:谷村庸平