「ひとくいにんげん」back number
「ひとくいにんげん」は2016年リリースの15thシングル『僕の名前を』の収録曲です。力強いロックチューンであり、印象的なベースソロによって彩られています。
その強烈なタイトルは何を指しているのか、迫っていきたいと思います。
「ひとくいにんげん」歌詞
雄々しい清水
足りないのは酸素なのか
自分の居場所なのか
どうしてこんなにも
満たされずにいるのか
有象も無象も束になって
返り血なんて気にしないで
踏み潰して歩けばいい
未来の自分へと
出典: ひとくいにんげん/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
女々しいと言われ続けた清水依与吏が書いたとは思えない飢餓感がある歌詞です。何かが満たされないのにそれが分からない…だから全部潰して進み続けるんだ。
これほどまでに雄々しい清水を見たことが、ありましたでしょうか。そもそもback numberという名前も、彼女をバンドマンに取られて自分がback number(=型遅れ)になったから付けられたそうですよ。
つまりほとんど当てつけみたいな名前なんですよね。最初のミニアルバムのタイトルは「逃した魚」。どんだけ女々しいんだ清水依与吏。
この「ひとくいにんげん」はそんな彼のイメージと、かけ離れた歌詞なんですよね。
感謝
理想に現実が降り注いで
大事な犠牲がいくつもあって
でも生きるにはそれごと
真っ二つにして
いただきますと手を合わせて
出典: ひとくいにんげん/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「いただきます」って普段何気なく言っていますけど、作ってくれた人や生産者、そして命そのものに感謝する言葉ですよね。
英語だと「いただきます」に相当する言葉が無くて、そのタイミングで言ってるのは「アーメン」だったりしますよね。つまり神に祈りを捧げているわけで、食物への感謝という感覚は有りません。
この日本的な感性をここで持ち出してくるわけです。「いただきます」は関係者と当事者、全員に感謝する言葉なのです。
何に感謝しているのか
なりたい自分がまずあって、そこに至るまでの現実的な障害がある。人はそれを乗り越えて理想を実現していきますよね。その障害やそれを乗り越えるための犠牲、全てが清水を成長させてきました。
だとすればそれらを喰らって生きてきたことになりますよね。人は食物を摂取することで成長するわけですから、同じように障害を喰らってミュージシャンとして強くなってきたのです。
また清水はインタビューで周りの感性にすごく影響を受けていると語っています。そういう見地ならば「他人の感性を吸収すること=ひとを食うこと」という比喩が成り立ちますよね。
清水だけでなくほぼすべてのミュージシャンが自分に関わるもの全てを、感性の肥やしにしているのです。
だからこそ自然と「いただきます」という感謝の言葉が出てきたのではないでしょうか。
弱肉強食
シンプルに言えば誰もが
特別じゃないって事
弱けりゃ黙って
食われてろよって事だろ
出典: ひとくいにんげん/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
そこにあるのは一握りの天才しか生き残れない音楽業界の厳しい現実です。よく考えたら清水依与吏が女々しいのってラブソングだけですよね。
こと音楽のことになると彼はここまで強く、たくましくなれるのです。音楽の世界は弱肉強食、弱いものは食われて去るだけなのです。天才たちの肥やしとなって…。
それにしても清水をこれほどまでに豹変させるとは、音楽業界の厳しさは想像以上かもしれません。成功者であるback numberですらこうなのですから。
音楽は繋がっていく
足りない足りないよ
こんなもんじゃ
もっと僕にちょうだいよ
研ぎ澄まされた感性を
有象も無象も束になって
返り血なんて気にしないで
踏み潰して歩けばいい
未来の自分へと
出典: ひとくいにんげん/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏