デゼニランドの 鼠の口元が
への字に曲がる「平成」
なんとか 終わりの頃からは
V字を夢見て谷間からポロリン

出典: 益荒男さん/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

サビでは「デゼニランド」というキラーワードが登場します。

その後に「鼠」と続くことからもこれはあの世界的テーマパークを表しているに違いないでしょう。

「ゼニ」と変換していることからもお金絡みの揶揄であると推測できますね。

不景気の比喩

お金絡み、そして「への字に曲がる」「V字を夢見て」という歌詞から連想されるのは景気問題です。

「デゼニランド」といえばアメリカ合衆国を代表するテーマパーク。

「平成」の時代にアメリカの口元がへの字に曲がった出来事といえばリーマンショックが思い当たります。

2008年に起きたリーマンショックは世界的不況の引き金となり、日本経済にも大きな影響を及ぼしました。

そんな日本で「平成」の「終わり頃」に「V字を夢見て」行われた政策といえばアベノミクスです。

アベノミクスが景気回復に繋がったかどうかは賛否が分かれるところですよね。

回復の起点となるV字の「谷間からポロリン」とのことなので、この曲ではアベノミクスは失敗だと捉えています。

オッペケペーの時代

結局【益荒男さん】は何の歌?

くるり【益荒男さん】歌詞を解釈!ベルは何の終わりを指す?益荒男さんはどんな時代で生きているかを紐解くの画像

結局のところ【益荒男さん】は何について歌われた曲なのでしょうか。

不景気によって近頃男性の元気がなくなってしまったことを歌っているのでしょうか。

そのヒントは曲中に何度か登場する「オッペケペー」というワードに隠されています。

【益荒男さん】に登場する「オッペケペー」および歌詞の大部分には元ネタがあります。

それは明治時代の壮士演歌『オッペケペー節』です。

この『オッペケペー節』を引用しているという点が【益荒男さん】の真意を知る上で最も重要な要素となります。

「オッペケペー節」とは

【オッペケペー節】とは1889年に川上音二郎によって作詞された壮士演歌です。

日本人がレコードに声を吹き込んだ最古の歌としても知られています。

「壮士」とは明治政府に対する反体制派、自由民権論派の活動家のこと。

「演歌」とは現在でいう演歌のことではなく演説歌の略です。

明治政府の言論弾圧が厳しい中、カモフラージュとして反体制の思想を歌にしたのが壮士演歌です。

「芸」として寄席で歌われると、政府に不満を感じていた民衆の心を鷲づかみにしました。

【オッペケペー節】はその壮士演歌の最も代表的な曲の1つです。

【益荒男さん】は政治的抗議の歌

くるり【益荒男さん】歌詞を解釈!ベルは何の終わりを指す?益荒男さんはどんな時代で生きているかを紐解くの画像

反体制思想と音楽には密接な関係があります。

1960年代、70年代のアメリカではフォークソングやロックミュージックにのせて多くの政治的抗議が歌われました。

その背景にあったのは公民権運動やベトナム戦争に対する反戦運動です。

それらの政治的抗議のメッセージを含む歌は「プロテストソング」と呼ばれます。

【オッペケペー節】はアメリカで歌われるよりも何十年も早く日本で歌われた「プロテストソング」だともいえます。

その【オッペケペー節】をロックバンドであるくるりが【益荒男さん】で引用したわけです。

つまり【益荒男さん】は政治的抗議のメッセージを含む「プロテストソング」だと考えられます。

岸田繁の怒り

くるり【益荒男さん】歌詞を解釈!ベルは何の終わりを指す?益荒男さんはどんな時代で生きているかを紐解くの画像

【益荒男さん】は政治的抗議の意味が込められた歌です。

【オッペケペー節】の歌詞を引用しながら岸田繫の体制への怒りが多く歌われています。

以下、その怒りをご紹介していきます。

米価騰貴の こんにちに
細民困窮 省らず
目深に被ってる プライドの陰から
慈悲なき慾心 桜散る

出典: 益荒男さん/作詞:岸田繫 作曲:岸田繫

【益荒男さん】の歌詞の多くは【オッペケペー節】からの引用です。

そこにオリジナルの歌詞を加えることでうまく現代風刺に仕上げています。

この部分では「プライド」「桜散る」という歌詞がオリジナルになります。

そこから想像できるのは2019年まで開催されていた「桜を見る会」です。

内閣総理大臣により毎年行われてきた行事ですが、2019年に問題が表面化し議論になりました。

結果、2020年以降の開催中止が発表。

「桜散る」とは「桜を見る会」の中止への皮肉だと考えられます。