では男性の「嘘」とは、一体何を指しているのでしょうか。
世の男性が女性に対し嘘をつくときは、大抵後ろめたいことが多いものです。
イントロからの短い数行で読み解ける、「許されない愛」。
すなわち、不倫であろうと推測できるのではないでしょうか。
「嘘」でもいいからと、主人公の悲痛な叫びが響きわたります。
こんな苦しい思いをするくらいなら、いっそ騙されたままでいればよかったのかもしれません。
あの時、気づかないふりさえしていれば今もあなたに抱きしめられていたのに...。
後悔の念だけが、心の中を繰り返し駆け巡っているのです。
いつも雪を見ると想い出すのでしょう。
叫んでも届かぬ想いの声は、まばらに落ちる雪にかき消されてしまうのです。
存在するはずのない出来事
手の平で儚く溶ける雪
不幸つづきの おんなに似合う
掴むそばから 消える雪
出典: 細雪/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
不運な女性を物語る、もの哀しい歌詞が胸に突き刺さります。
しかし主人公の場合、自業自得ともいえるのではないでしょうか。
人生で、そんなに不運な出来事ばかりはつづきません。
もっといえば、不幸が似合う女性など存在するはずはないのです。
いえ、決して存在してはいけないのです。
あえて自ら火の海へと、飛び込んでいるのではありませんか。
踏み込んではいけない禁断の愛。
どうしても好きになる男性は、いつも誰かのモノだといっているのでしょう。
温もりを手に入れた途端、手の平から幸せは消え去ってしまいます。
熱く燃え上がりすぎたがゆえ、醒めるときも他愛もなく溶けてしまうのです。
温もりが欲しい...
背中合わせの ぬくもりだって
あなたがいれば 生きられる
夢のかけらが 散るような あゝ
外は 細雪
出典: 細雪/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
面と向かわなくても温かさを感じられることができる。
2人がそばに居さえすれば、冷えた心を温めてくれるのです。
たとえ私に対する気持ちが醒めていたとしても、身体のどこかが触れているだけでよいのでしょう。
おかれた立場や状況がどうであれ、人を好きになることはそんなものだと考えさせられます。
同じ時を同じ空間で過ごせる幸せ。
ただそれだけで、堪え忍ぶことができるといっているのでしょう。
いつかはきっと結ばれると、男性を信じきっていた主人公。
その想いだけを胸に抱く反面、虚しさだけが心に残ります。
それは雪とともにハラハラと砕け散り、足元に沈みゆくようだと憂いでいるのです。
きっと主人公は、身を切られるような想いだったでしょう。
悲痛な心情であったことに違いありません。
紅が朽ちるまで...
嘘で固められた現実
酔ってあなたが わたしにくれた
紅がかなしい 水中花
出典: 細雪/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
いつか男性がプレゼントしてくれたことを思い出しています。
誕生日か、2人にとっては大切な記念日だったのでしょうか。
貰ったその日が記念日で、何でもない日だったのかもしれません。
そのことを、主人公は今でも忘れず覚えています。
半永久的に咲きつづける、「水中花」。
ガラスの瓶や器に囲われ、造花が用いられることが多いのです。
愛しあっていた2人、赤く炎のように見える花を2人になぞらえたのでしょう。
なぜなら2人は、後先が見えず燃え上がるような恋をしていたからです。
枯れるはずのない赤い花が、今は枯れてしまい火が消えてしまったようだといっているのでしょう。
所詮つくられた世界で生きる、つくられた愛だと主人公は訴えているのです。
真実の愛を探し求める
春になったら 出直したいと
心にきめて みれる酒
お酒下さい もう少し あゝ
外は 細雪
出典: 細雪/作詞:吉岡治 作曲:市川昭介
主人公は、男性に一応の区切りを決意したのでしょうか。
一見、前向きな強い意思とも感じとれます。
「出直す」といえど、2つ考えられるのではないでしょうか。
「嘘」が恋しいと謳っていた主人公。
それでもいいと、男性の元へ戻る覚悟を決めたともいえます。
新たな出逢いを求める決心をしたともいえるでしょう。
未練は残るものの、暖かくなれば自身の心にもきっと新たな希望が芽生えると期待するのです。
2人でしばしば飲んでいた酒。過去を思い起こさせる酒。
しばらく断っていた酒なのかもしれません。
今度好きになる人は何の疑いもなく、「嘘」のない真実の愛を築いていきたい。
そう誓いをたてるよう、酒に契りを交わすのです。
過ぎ去った日に終止符をうち、決意したこの日を1人で祝っているのでしょう。
今日だけは、酒に溺れてしまうことを許してほしいといっています。
主人公は、見えるはずのない男性の背中にそう語りかけているのです。