パワー・ポップの傑作「ホームタウン」誕生
チカラをすっと抜いたような楽曲たち
2018年12月5日発売のASIAN KUNG-FU GENERATIONによるアルバム「ホームタウン」。
チカラをすっと抜いたような楽曲群に安心させられます。
パワー・ポップの王道をゆく楽曲に、隅々まで意識が行き届いているサウンド・プロダクション。
歌詞もあの名曲へのオマージュ、ときの政権批判などヴァラエティーに富んでいます。
全音楽ファン必聴のアルバム「ホームタウン」。
このアルバムの魅力を全曲解説でお届けいたします。
尚、このアルバムは低音が過剰なほどに強く押し出されている音作りです。
イヤフォンではなく低音を存分に再生できるヘッドフォン以上の環境での鑑賞を推奨いたします。
Weezerのリヴァース・クオモなどとの共作「クロックワーク」
ロックの要は低音にあり
1曲目はWeezerのリヴァース・クオモ、ブッチ・ウォーカーとの共作曲。
ブッチ・ウォーカーはWeezerのプロデューサーも務めたことがあるSSW(シンガー・ソング・ライター)。
ギターのアルペジオのようなリフが印象的。
ミドル~スロー・テンポで切なくなるような歌詞と後藤正文のボーカルが沁みるのです。
パワー・ポップの王道のようなサウンド。
ここで気付くと思うのですが、低音がかなり前に押し出されています。
「ロックは低音にあり」という信条が音作りの柱になっているのかもしれません。
長針と短針が重なり合うとき
時計の上で
振り子になって
君との距離が離れたって
針が巡って重なったら
もう一度触れてもいいって
笑ってよ
忘れられないよね
出典: クロックワーク/作詞:Rivers Cuomo Butch Walker Masafumi Gotoh 作曲: Rivers Cuomo Butch Walker Masafumi Gotoh
別れを告げた後も時間が経てば、いつか再会できる日が来るかもしれない。
時間は直線的に進んでゆく。
それに比べて時計というものは不思議なものです。
一定の時間が経てば長針と短針が触れ合う。
「クロックワーク」は長針と短針が重なるように、時間が経てば別れた彼、彼女も再び交わる様子を歌います。
間違いなく愛の歌です。
アルバム・タイトル曲「ホームタウン」
アジカンの格段の進化
アップ~ミドル・テンポの丁度心地よい楽曲に納得します。
ベースとドラム・サウンドが屋台骨をしっかり支えているのです。
スネアの音がよく響いてきます。
後藤正文のボーカルは歌詞カードを見なくても理解できるくらいくっきりしている。
2000年代前半ではバンド・サウンドに後藤正文のボーカルが若干埋もれがちでした。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONも9枚目のフル・アルバムに至って格段に進化しています。
歌詞は忌野清志郎へのオマージュ?
蹴飛ばして 愛を確かめたい
君にまたがって 声を確かめたい
止まったエンジンと漲ったバッテリーも
彼のことを思い出してキメようぜ
俯いていては
将来なんて見えない
ほら 雨上がりの空から
子供たちが覗いて笑う
ホームタウン
出典: ホームタウン/作詞:Masafumi Gotoh 作曲:Masafumi Gotoh
歌詞を一聴して連想するのはRCサクセションの名曲「雨上がりの夜空に」です。
エンジン、バッテリー、キメよう、雨上がりの空。
キーワードを書き出すとよく分かります。
この曲に出てくる「彼」とは忌野清志郎のことでしょう。
問題はなぜRCサクセションへのオマージュの曲を「ホームタウン」と名付けたのか。
きっと後藤正文にとって一番居心地がよい場所には忌野清志郎のような勇気ある人物が必要なのでしょう。
「雨上がりの夜空に」の世界観の中に私たちのホームタウンがある。
確かに日本のロックの系譜を眺めているとそんな気にもなります。