謎多きアーティスト「和ぬか」

2021年、20歳という年齢以外は全て非公表としながら配信限定でシングルを発表した和ぬか。

代表曲であり、TikTokで多くの人が取り入れた楽曲「寄り酔い」は、女性目線の歌詞に注目です。

どんな人が歌っているのか分からないといったミステリアスさが、色気にすら感じる本楽曲

MVでは浴衣らしき和装をした女性が、潤んだ瞳でこちらを見つめています。

この女性が抱える「愛」は、気軽に気持ちを伝えられるような単純なものではありません。

愛しているけれど、それをなかなか伝えられないもどかしさ……。

そして、明日には消えてなくなってしまいそうな儚い関係性……。

そんなフレーズの1つ1つが、多くの人の共感を呼んでいます。

君との関係

「寄り酔い」とは

家まで送ってもらいたいの
今夜満たされてたいの
できれば君にちょっと
濡らして欲しいの
酔いで寄りたいの
ごまかしてキスしたいの
君といたいよ
暗くてぬるい部屋で

出典: 寄り酔い/作詞:和ぬか 作曲:和ぬか

2人出かけた帰り、別れを惜しんでいる様子の主人公。

MVの服装から察するに、夏祭りに行った帰りだと思われます。

夜まで一緒に過ごし、花火を見て、雑踏から抜け出して……。

そのままお別れを言うのは、胸が締め付けられるように寂しいものです。

お祭りのような非日常を体験した後はなおさら、人が恋しくなりがち

この火照った頬と、高ぶる感情をそのままに、夜を越すことができたらどんなにいいでしょうか。

お酒に酔ったテンションのままで構わないから、誘ってほしい。

真面目でまっすぐなキスでなくてもいいから、触れていてほしい。

伝えたくてもなかなか伝えられない、主人公のわずかな望みが手に取るように感じられます。

足りない物とは

火照って ふらついて 肩触れ合う夜に
足りない物を一つ教えてあげる
「君が見上げた空に見えるもの」

出典: 寄り酔い/作詞:和ぬか 作曲:和ぬか

肩が触れ合うほどに近くにいるのに、心の奥底までは近づけない君との距離がもどかしく感じられます。

今日はいつもよりお酒を飲み過ぎてしまい、足取りがおぼつかない主人公。

それもこれも、彼に気にしてほしいからに違いありません。

それでも家に誘うこともなく、簡単に別れの言葉を口にする彼……。

本当にほしい言葉は、「またね」でも「気をつけてね」でもありません。

その答えは見上げた夜空が教えてくれています。

夜空にあるもの……それは輝く星、空を明るく照らした花火、そしてその明るさが嘘のように静かに輝く月

お祭りの後、まるで何もなかったかのように輝く月を見て、君は何を想っているでしょうか。

それとも、月など気にも留めていないのでしょうか。

「月」そして「愛」といえば、結びつくのがあの言葉……。

「今宵は、月が綺麗ですね。」

夏目漱石が口にしたといわれるこの言葉は、「愛している」という意味に取れる素敵な言葉です。

そして、それは主人公が最も言ってほしかった言葉でもありました。

足りない物はたった1つ、君からの愛の言葉だけ。

それ以外に何も望んでいないのに、なかなか手に入らない状況にもどかしさが募ります。

陽が落ちてからしか会えない

酔わなければならない理由

いつもならば、1人で過ごす夜もそれほど寂しいとは感じずに済んでいました。

しかし今日は、2人の距離が大きく縮まり、日が暮れるまで一緒に過ごしたお祭りの日。

今日だけは、せめてもう少しでいいから、そばにいてほしい……。

主人公と君の間には、少しの温度差が感じられます

そして、こんなに悲痛な想いを抱えているにもかかわらず、それを口にすることができないでいる主人公。

今日はお酒の力を借りて、君に少しだけ自分をさらけ出すチャンスなのです。

「酔って」いなければ、なかなか「寄る」ことができない……。

日頃から溜めに溜めてきた想いは、もはやはち切れそうなほどに膨らんでいました。

せめて朝まで一緒に居たい

綺麗な愛とか柄じゃない
ねぇ肌に任す それもいいじゃない
だからよそ見しないで
日が昇るまで
私だけを見てよ
言えるわけないじゃん

出典: 寄り酔い/作詞:和ぬか 作曲:和ぬか

感じたことをありのままに共有し、同じ景色を見つめながら過ごす……。

そんな日々には縁がないけれど、そうしたいと望んでいるのは確かです。

しかし気丈にふるまい、自分の弱みを見せずに過ごしてきた主人公にとって、それは簡単ではありません。

少女漫画のように純愛でまっすぐな恋愛など、自分には似合わないと諦めてしまっています。

それでも心は、ただまっすぐに彼に会いたいと願い続けていて……。

声にならなかった想いたちが集まって、「寄り酔い」という楽曲を作り上げているのです。

夜の闇の中では、寂しさや恋しさも募ってしまいます。

せめて朝日が昇るまで一緒に居てくれれば、その辛さも少しはマシになるでしょう。

そしてそのわずかな時間だけは、自分のことだけを考えていて……など、言えるはずもありません。

余計なプライドと恥ずかしさが、主人公の本当の心を覆い隠してしまっています。