思わずこぼれた言葉

それはフラミンゴ 恐ろしやフラミンゴ はにかんだ
ふわふわ浮かんでもうさいなら
そりゃないね もっとちゃんと話そうぜ
畜生め 吐いた唾も飲まないで

出典: Flamingo/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

何も求めない、といいながらも心のどこかではわかり合いたいと思っている。

そういう矛盾した心を抱えているのが人間です。

そして、自分ではそれに気付いていないことも多々あります。

この”彼”も、心のどこかでは相手と分かり合いたかった。いろんな思いを語りたかった。

でも、そんなに素直にも、正直にもなれようはずがありません。

”彼”はそんな風には振舞えません。

今まで裏切られ続けて生きてきた”彼”は、もはやどうやって自分の気持ちを伝えるのかすら忘れてしまったのです。

「ちゃんと話そう」

不器用にしか振舞えない”彼”。でも、その”彼”が言うのです。「もっとちゃんと話そう」と。

唐紅のフラミンゴには、それだけ”彼”に対する影響力があったのです。

でもこの彼女はそうする間もなく去っていってしまったのでしょう。捨て台詞だけを残して。

彼女はこう言う

氷雨に打たれて鼻垂らし あたしは右手にねこじゃらし
今日日この程度じゃ騙せない 間で彷徨う常しえに

出典: Flamingo/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

この部分は、彼女の告解のようです。

一番冒頭に出てきた”彼”の心の描写と同じように、この相手も冷たい雨に打たれていると表現されています。

ここからわかることは、本当はこの彼女も”彼”と同じ孤独な心の持ち主であること。

その美貌で、その手練手管で本音を隠して生きてきたのかもしれません。

誰にも心の内は悟らせずに。

男性は簡単にその美しさや笑顔の虜になって来たのかもしれません。

それで今までかりそめのぬくもりを手に入れてきました。それで満足していました。

騙せなくなってきたのは、自分の心。

うわべだけの自分に惹かれて群がってくる空虚な関係では満たされないことに気付いたのです。

気付いてしまった心

誰かの腕の中にいても、心はそこにはない。

美しさのみに価値を見出される日々。

人の心を弄んでいるようで、実は軽んじられていたのは自分。

薄々気付いてはいましたが、はっきりと自覚します。

「もっとちゃんと話そう」と語りかける”彼”の存在によって。

そんなことを言う人間はこれまでいなかったのかもしれません。

”彼”の目に唐紅の極彩色で飛び込んできた彼女。

極彩色に見えたのは、”彼”と同じ心を持っていたからなのではないでしょうか。

無意識のうちにお互いが同じ種類の人間であることに気付いていた。

同じ痛みを抱える人間であることに気付いていた。

だからこそ、惹かれあったのです。

それでも……

でも彼女は、自他ともに認める至高の存在。美しく舞うフラミンゴ。

今更、そんな不器用な相手に素直にふるまえるはずもありません。

周囲への見栄もあります。プライドもあります。

魂が呼び合うかのように惹かれながら、そういう態度をとるしかなかった。

これまで相手を騙しながらうまくやって来たと思っていた。今回もそうだと思っていた。

でも、本当に騙していたのは自分の心。

はっきりと自覚したからには、もう誰の腕の中にも帰れず、彷徨います。

”彼”のそばに行けるはずもなく。

自分は「手に負えない魔性の女」。そんなイメージを今更壊せるはずもなく。壊す勇気もなく。

永久に。

死ぬまで張り続ける虚勢

地獄の閻魔に申しい入り あの子を見受けておくんなまし
酔いどれ張り子の物語 やったれ死ぬまで猿芝居

出典: Flamingo/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

どこからか声が聞こえてきます。

何もかも、全て見ている大きなものの存在。

彼女を気の毒に思ったのでしょうか、人間の人生を裁く閻魔様に申し出ます。

どうか彼女を救ってやって欲しいと。

これは、私たちと同じこの物語をここまで見てきた存在でしょう。

美しく哀しいフラミンゴの行く末を憐れんでいるのかもしれません。

フラミンゴが紅いのは

フラミンゴは、生まれながらにあの美しい紅色を纏っているわけではありません。

生まれた時は灰色で、もともとは白っぽい地味な鳥だそうです。

餌として食べる藻類やエビなどに含まれる赤い色素がフラミンゴを赤く染めているのです。

このことからも、この曲のフラミンゴが何を象徴しているのかを察することができます。

本当は、傷ついた繊細な心を持った普通の女性だった彼女。

でもその心を守る為に、自分が壊れないようにするために強くならなければ生きていけなかった。

だから彼女は、美しさで身も心も武装していくようになったのです。