水しぶきが奏でるメロディ 真夜中の電話が歌いだす Ring Ring Ring
背中に這う影に恋をした 夜空を突き抜け 聴こえるその声は
You! 切なくて でも懐かしい 憧れる 不思議な力
出典: STARMANN/作詞:YUKI 作曲:小形誠
ある日女の子は恋に落ちてしまいます。
その日から女の子にとって世界は全く違った様相を浮かべたのです。
雨が滴り落ちる音はピアノの音色。
真夜中に鳴り出した電話の音はまるで讃美歌のようです。
胸が締め付けられるような切ない気持ち。
でもドキドキが止まらない♪
2009年から連載が始まり後に単行本化される直木賞も受賞した「蜜蜂と遠雷」という小説。
そこには偶然にも同じような表現が見られます。
ある出来事きっかけに音楽から離れて暮らす天才ピアニストの少女。
彼女は幼少期にトタン屋根を打つ雨音が美しいメロディーを奏でるのを聴きます。
跳ねるようなギャロップのリズム。馬の足音のような旋律。
彼女はその雨音に”雨の馬たち”と名付けます。
「STARMANN」の歌詞と同調するような世界を感じて胸が熱くなりました。
女の子は恋に落ちた音楽に「STARMANN」と名付けたのでしょう。
「STARMANN」どうかいつも側にいてください
STARMANN 24/7 迷子のステップで踊ろう
Stay by my side あなたの瞳には旅立ちの唄
STARMANN いつも いつでもそばで
わたしもそばで 踊らせて
出典: STARMANN/作詞:YUKI 作曲:小形誠
愛しの「STARMANN」。
あなたの奏でるメロディーは私の胸を締め付けるのです。
だってあなたの歌は奔放で悲し気。
まるで旅立ちの歌のようなの。
どこにも行かないで、お願い。
あなたのリズムは私を迷子の子どものように不安にさせる。
それでもいい。側で一緒に踊らせて。
最初に「STARMANN」を聴いたとき”24/7”という変拍子があるかと思い込んでしまいました。
”24/7”は24時間、1週間の間の7日間ずっと一緒にいてくださいという意味です。
女の子にとって「STARMANN」は初恋。
だからいつも一緒にいたい、例え不安な気持ちを覚えても。
YUKIの作詞家としての素晴らしさも堪能できる「STARMANN」。
まだ続きがあるんです...。
歌詞に感じられる文学性
短歌のような詩的表現
夕日を黒く塗り潰せば 絶え間なく溢れる涙 Cry Cry Cry
初めて見る海によく似た 夢よりも甘く ささやくその声は
You! 眩しくて 手を振れば遠く 輝いて 瞬く星座
出典: STARMANN/作詞:YUKI作曲:小形誠
夜の静寂。
「STARMANN」、どこにいったの?
あなたがいなくなると思うとそれだけで涙が溢れる...。
でも星空を見上げるとあなたの囁くような優しい声が聴こえてくる。
そこにいたんだね。
あなたの存在を確かに感じることができる。けれど...。
君はそんな遠くにいるんだね。
”夕日を黒く塗り潰す”
夜をこんなに文学的に表現した歌は近年あまり見なくなりました。
意外なことにYUKIは70年代~80年代の歌謡曲に強い影響を受けたそうです。
当時の歌謡曲は阿久悠や松本隆の素敵な歌詞がテレビで聴けた時代。
そしてYUKIの無類の読書好きもファンの知るところですね。
「STARMANN」はあまり多くの言葉を使用していません。
まるで短歌のような美しくも儚い侘寂(わびさび)を感じることができるのです。
あなたのキスは一握の砂
STARMANN 24/7 最後のステージは おめかしをして 歌いたい
あなたのキスは一握の砂
STARMANN いつか 光を超えて
わたしを空へ 連れ出して
出典: STARMANN/作詞:YUKI 作曲:小形誠
女の子はいつも不安で堪りません。
だって愛しの「STARMANN」はすぐに消えてしまいそう。
せめて最後のステージは教えてください。
私は一張羅のドレスを着てあなたの最後を見届けたいの...。
ここでYUKIは自身のルーツに立ち返ります。
「一握の砂(いちあくのすな)」とは日露戦争後に発刊された石川啄木の歌集です。
故郷岩手への想い、そして短くも濃密な時間を過ごした北海道での思い出が綴られています。
YUKIは啄木が過ごしたことで知られる北海道の函館出身です。
そのことから石川啄木にシンパシーを抱いていたのでしょう。
「一握の砂」にはこんな一節なあります。
なみだなみだ 不思議なるかな それをもて洗へば心戯けたくなれり
出典: 一握の砂/石川啄木
悲しい時は素直に泣けばいい。
そうすれば心が洗い流され穏やかな気分になれる、ということを歌っています。
”心が洗われる”という表現は「一握の砂」から生まれたといわれています。
「STARMANN」のキス、すなわち歌声は悲しみを洗い流してくれる。
そして女の子を乗せてどこまでも連れて行ってくれるのです。
なんてロマンチックな表現力でしょう!
恋に落ちた女の子はYUKI?
You! 愛しさに 波はくり返す 呼び覚ませ 不思議な力
STARMANN 24/7 迷子のステップで踊ろう
Stay by my side あなたの瞳には旅立ちの唄
STARMANN 24/7 最後のステージは おめかしをして 歌いたい
あなたのキスは一握の砂
STARMANN いつも いつでもそばで
わたしもそばで 踊らせて
水しぶきが奏でるメロディ 真夜中の電話が歌いだす Ring Ring Ring
出典: STARMANN/作詞:YUKI 作曲:小形誠