次の世の僕らはどうしよう 生まれ変わってまためぐり合ってとかは
もうめんどいからなしにしよう 一つの命として生まれよう
そうすりゃケンカもしないですむ どちらかが先に死ぬこともない
出典: 25コ目の染色体/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
もし二人が死んでしまったら、来世はどうしようかという相談です。
沢山の出会いを経て二人が再会するなんて時間が掛かりますし、駆け引きも面倒です。
まず生まれ変わった相手を見つけられるのかどうかも分かりません。
それならいっそ「一つの命」になろう、という結論に達しました。
そうすれば、同じことを考え、同じ水を飲み、同じ空気を吸い、同じ瞬間に死ぬことができます。
ここには彼の「エゴ」が一つ、潜んでいるような気がしました。
彼はお互いがお互いのために命を持ちたいと願っていましたが、彼女はそんなことを一度も口にしませんでした。
もし命が一つなら、彼の死が彼女の死。彼女が生きたければ彼の生を願う必要があります。
彼は現世で叶わなかった願いを叶えるために、来世で一つの命になることを選んだとも考えられます。
そして同じ友達を持ち みんなで祝おうよ誕生日
あえてここでケーキ二つ用意 ショートとチョコ そこに特に意味はない
ハッピーな時は2倍笑い 2倍顔にシワを残すんだい
これが僕の2番目のお願い 2つ目の一生のお願い
出典: 25コ目の染色体/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
一つの命となった二人は、何もかもを分け合うのではなく、何もかもが二倍になります。
幸せは二倍になり、友だちも二倍。笑いじわも二倍になってしまいますが、それだって幸せです。
そう考えると、悲しみも二倍に膨れ上がってしまいます。
しかし彼は今までの経験上、悲しみなんて訪れないのだと考えているのでしょう。
泣き方を忘れてしまうほど幸せだったのですから。
彼の一生のお願いの二つ目は、一つの命として生まれること。
でもそこには彼女の意志は含まれていません。
彼は彼女と一つの命になることを願っていますが、彼女は受け入れてくれるのでしょうか。
君は特別な人だから
I will die for you, and I will live for you
I will cry for you because you're the told me how
出典: 25コ目の染色体/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
『僕は君のために死ぬ、そして君のために生きる。
君は僕を伝えてくれる手段なのだから、僕は君のために泣くよ』
伝える手段、これは遺伝の手段と捉えることができます。
一つの命になった二人は、互いの遺伝情報を残すために互いが必要なのです。
もう一つ考えられるのが、女性を母胎として捉えた意味です。
彼の遺伝情報を受け取り、それを命として紡ぎ出す力を持っているのは女性だけ。
そうした特別な存在である彼女のためなら、泣き方を忘れたとしても泣いてみせるよ、という意味ではないでしょうか。
新しい命に望むこと
いつか生まれる二人の命 その時がきたらどうか君に
そっくりなベイビーであって欲しい 無理承知で100%君の遺伝子
伝わりますように 俺にはこれっぽっちも似ていませんように
寝る前に毎晩 手を合わせるんだ
出典: 25コ目の染色体/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
二人が一つの命になることなく今のまま生きていくと、やがて二人の間には新しい命が生まれるでしょう。
彼は容姿に自信が無いのでしょうか。自分には似てほしくないといいます。
その願いは、毎晩手を合わせてしまうぐらい必死なもののようです。
二人の遺伝子が合わさって生まれる命ですから、彼の遺伝子がゼロというわけにはいきません。
それでも彼はそうであって欲しいのです。
遺伝情報を伝え、育んでくれる彼女に感謝しつつも「伝えてくれるな」という矛盾が少し愛らしいですね。
そんなこと言うといつも 君は僕に似てほしいなんて言うの
そんなのは絶対いやだよ 強いて言うなら俺のこの
ハッピー運とラッキー運だけは一つずつ染色体に
のせて あげて ほしいな
出典: 25コ目の染色体/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
一方で彼女は、自分には似てほしくない、彼に似て欲しいと言っているようです。
「いつも」ということは、何度も将来のことを語り合ったのでしょう。
曲の冒頭では「死」を前提にしていた彼ですが、実は次なる命に思いを馳せているのです。
思いのほかポジティブな曲なのかと感じますが、死ぬ前に何かを遺したいという切ないメッセージも感じます。
自分には似ていない子どもでありますようにと願う彼。でも似てほしい部分がありました。
彼が持つ「ハッピー運」と「ラッキー運」です。
彼女と歩んでいけるのが「ハッピー」、彼女と出会えたのが「ラッキー」という意味でしょうか。
自分の子どもにも、どうか幸運な人生が与えられますように。
こうした強い願いが胸を打ちます。
遺伝情報を伝えられるのは彼女だけ。だから彼女に「のせてあげてほしい」とお願いしました。
『25コ目の染色体』とは何なのか
最後に、曲のタイトル『25コ目の染色体』の「25」という数字の由来について考察します。
まず一つ目の考察が「人間が持つ23の染色体、ハッピー運の染色体、ラッキー運の染色体」
これで25個になります。
最も分かりやすい読み解き方ではないでしょうか。
しかしこれでは「25コ」に「目」がついている理由が分かりません。
読み解く中で引っかかったのが「染色体にのせて」というフレーズです。
幸運の染色体を付け加えるのではなく、幸運を染色体の上にのせて欲しい、と言っているのです。
遺伝学や生物学では、染色体に遺伝情報が「のっている」という表現をすることがあります。
野田洋次郎はそれを知っているのかもしれませんね。
ですから「幸運はどこかしらの染色体に乗せてほしい」という歌詞にしたのでしょう。
では25個をカウントしてみます。
まずは人間が持つ22の常染色体。子どもにもこれが伝わります。
次に父親である彼が持つ性染色体。母親である彼女が持つ性染色体。これで24個になりました。
そして彼と彼女の性染色体から作られた新たな性染色体。
つまり『25コ目の染色体』は、生まれくる新しい命が持つ性染色体ではないでしょうか。
彼のハッピー運とラッキー運は、彼が遺伝として受け継いだものではなく、彼自身が獲得したもの。
ですから二人の遺伝子が合わさったとしても、彼の幸運は子どもに伝わりません。
そこで彼女の「伝える術」を使って、子どもの染色体に運を乗せて欲しいと願っているのです。
幸運をのせた25コ目の染色体は、彼らの子どもをどんな幸せに導くのでしょうか。
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