自分の記憶でありながら、自分ではどうすることもできない切ない思い。
主人公は、記憶の中の彼にどんなことを望むのでしょうか。
わかっているからこそ
恋愛にはその数だけパターンがあります。
遊びのように美しいだけ、楽しいだけの恋愛や、相手のこともよくわからぬまま終焉を迎える恋など。
この歌の主人公が経験した恋愛は、お互いの気持ちがわかりすぎる程わかっていた関係のように感じられます。
相手の気遣いや、優しさそして優しさゆえにどうにもならない部分まで本当に理解できた恋。
そしてそれはお相手も同じように自然にこちらの気持ちをわかっていたでしょう。
相手の気持ちが理解できない、というのも一つの苦しみとなり得ますが、その反対も実は苦しいものです。
相手の気持ちがわかりすぎるために、悲しくなる恋。
そして、これ以上、愛する人を苦しめないために引き際を決めなければならないということにもつながります。
これ以上、こちらに気持ちを向けられないから苦しんでいる彼を解放するために手放した恋だとしたら。
もしまだ私への気持ちが少しでもあるなら、その見返りとして私の記憶から消えて欲しい。
それが主人公の願いです。
あなたの居場所があるから
主人公の中で彼はまだ消えてはいません。
愛が残っていたり、憎んでいる間は相手のことが記憶に染みついています。
無関心になれたとき、相手の記憶は胸の奥底に封印されます。
幸せだった記憶もいらないから、辛い記憶も消してしまいたい、そんな風に思うことがあります。
実際には別れの儀式を終え、自分の中でもしっかり決着はつけたはず。
しかし、夢の中で蘇る彼の記憶はまだ主人公を熱い思いに導きます。
幻の彼から流れる胸の鼓動を聞きながら、主人公は体の力が抜けていくのを感じているようです。
例え幻であってもこのひとときは身をゆだねていたいという思いと、忘れてしまいたいという思い。
相反する気持ちの狭間で主人公はゆっくりと目を閉じています。
受け入れないこと
相手を受け入れない、拒むというのはこちら側の意志です。
意志の奥には感情があり、その感情の強さによって意志の強さは左右されるでしょう。
生理的に嫌だ、もう無理だと思って拒絶する場合、その意思は強固なものとなります。
受け入れてはいけない、という理性に裏打ちされた意志の場合はさらに強い感情に負けてしまいそうになることが。
拒まなければならない、でも好きでどうしようもない。
理性と感情のせめぎ合いは、冷たい夜にはふと感情が勝ることがあるのが人間なのではないでしょうか。
決めたこと
あなたに夢の中で もう一度ふれられたら
許してしまう...
許してしまう そんなそんな気がして
出典: 追憶/作詞:荒木とよひさ 作曲:根本要
この歌の主人公の経験した恋。
夢うつつの中で彼の温もりを思い出すときの複雑な思いを読み解いてみましょう。
許さないこと
人間関係はお互いに譲り合いながら関係を深めていきます。
男女の恋愛においては、長く関係を続けるには許し合うということも不可欠です。
主人公と元恋人はたくさんの時間を許し合い譲り合いながら共に過ごしてきました。
そして、主人公の方が少しだけ多く許していたかもしれません。
それは男女の性によるものでもあり、女性の方が大抵の場合たくさん受け入れてしまうもの。
そんな女性でも、どうしても許していけない譲れない線があります。
それは自分のためでもありますが、場合によっては相手のためでもあることが。
お互いのために許さないという決断。
それは、決断を突き付けられた者以上に、決断した方が苦しかったりします。
これ以上はもうだめだ、そう思って断ち切った恋。
そして、その決断を相手が受け入れてしまったことの切なさ、悲しさ。
自分で決めたことに苦しめられる矛盾に、主人公はやるせなくなっていきます。
そして、もし今、彼が許しを請うなら...。
現実には
タイトルになっている「追憶」。
この言葉は過ぎ去った過去を思い出すという意味があります。
即ち、主人公の中でこの歌に歌われている恋は現時点で過ぎ去っています。
もう一度や、もしかしてという甘いやり直しへの期待はありません。
そういう思いを何度も反芻して苦しんで、やっぱりもう過去になった思い出なのです。
絶対にやり直すこともないし、仕切り直しもない。
しかし、それでも愛は残っているのです。
そしてその記憶はたぶん一生消えることはなく、自分の中にあります。
これから先、誰を愛し、誰かの親になろうともその記憶は消えません。
はっきりとした消えることのない「別れ」というライン。
その線の向こう側で、それでなおそこにあり続ける思い。
追憶という言葉の残酷さと、悲しさ。
それが人間として人生を乗り切ること、大人になることなのだとふと切なくなります。
選ぶことと選びなおしはできないことと
スターダストレビューの「追憶」について歌詞を読み解いてみました。
恋の中でも自分が決めて断ち切った恋はいつまでも心に残ります。
愛していながら、何かしらの事情によってそのときは別れを選ぶことが最良であった。
そして、その選択は今思い返しても間違ってはいない。
しかし、決断の是非と感情とは全く別物です。
愛していること、好きであることが必ずしも恋愛の成就に直結しないのがこの世の常。
それを受け入れながら生きるのが大人になるということなのかもしれません。
共に生きる人の横にいながら、今宵だけはもう会うことのない人の鼓動を聞く。
そんな夜は、誰にでもあるのではないでしょうか。