メジャー1曲目にして重いテーマが課せられた1曲
2017年11月29日にメジャーデビューを果たしたクアイフというバンドをご存知でしょうか。
彼女たちがメジャーデビューに際して書き下ろした1曲「愛を教えてくれた君へ」という楽曲があります。
この曲に込められたテーマが、メジャー1発目の作品としては明らかに異彩を放っているんです。
そのテーマとは「死別」。
もちろん、こういった重いテーマを持った楽曲を歌うアーティストはたくさんいます。
しかしこのバンドの特殊な点は、彼女たちがポップスバンドだということです。
ポピュラーの定義こそ曖昧なものですが、何を持ってこの重いテーマを普遍的だと言うのでしょう。
奇麗事ばかりじゃいけない
ヴォーカルの森綾乃は「不安定な世の中だからこそ、目を逸らしたくなるような重いテーマを提示したかった」と語っています。
不安定な世の中において、励ましのメッセージが込められた歌はたくさん思い当たるでしょう。
そういう歌から与えられる力というのは、確かに私たちを勇気づけてくれるものです。
しかし、励ましの歌だけでいいのでしょうか?
問題というのは真剣に向き合ってこそ解決へ向かうものです。
励ましばかりではただの奇麗事。現実逃避になってしまいかねません。
そういった意味で彼女たちの楽曲は問題と向き合うきっかけをくれるもの。
紛れもなく普遍的なものだと言えます。
このことの重大さが、彼女たちの存在意義の1つともなり得るのでしょう。
アニメ「いぬやしき」から彼女たちが感じたものは
『いぬやしき』は、奥浩哉による日本の漫画。講談社の漫画雑誌『イブニング』にて、2014年4号(2014年1月28日発売)から2017年16号まで連載された。異星人の手によって機械の身体となった初老の男性と高校生の活躍や苦悩、救済される人々や殺害される人々を描く。2017年にアニメ化され10月から12月まで全11話が放送され、2018年4月には実写映画化され劇場公開されている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/いぬやしき
ストーリーは機械の身体に改造されてしまった主人公2人を取り巻くSF仕立ての内容。
しかしクアイフが着目したのは、そんなSF作品の中に潜んだ極めて日常的な価値観だといいます。
物語りに潜む日常的な価値観とは
老人のような外見の冴えないサラリーマン・犬屋敷壱郎は、会社や家庭からも疎外された生活を送っており、ようやく購入した一戸建てすらも家族の歓心を得ることができなかった。追い打ちをかけるように胃ガンだと診断され、余命3か月を宣告される。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/いぬやしき
以上は主人公、犬屋敷壱郎の境遇です。
なんともやり切れない気持ちにさせられる描写ですね。
しかし、この設定は決して珍しいものではなく、どこにあってもおかしくないものではないでしょうか。
また、もう一人の主人公獅子神皓の設定にこんなものがあります。
獅子神は母親や親友には有用に能力を使う一方で、生を実感するために民家に押し入っては無差別殺人を繰り返していた。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/いぬやしき
自分の身内は大切。
それ以外は無差別に殺してしまうという獅子神。
これに対してクアイフのベース、内田は「周りの大切な人間だけ幸せならいい、という想いにも正直少し共感できる」と語っています。
人生は良いことばかりではないし、人の心も奇麗事だけでは語れない。
壮大に思えるSF作品に込められた、こうした日常的な価値観。
これを感じて制作されたのが「愛を教えてくれた君へ」だったのです。
楽曲を考察
「愛を教えてくれた君へ」はピアノとストリングスが彩る壮大なバラード曲です。
なんでも、バンドには兼ねてからバラード曲をリード曲にしたいという想いがあったようですよ。
きっかけはバンドが着席形式のライブを行った際の手応えからだとのこと。
楽曲に込められた重いテーマを考えても、じっくりと聴き入るバラードスタイルが彼女たちには合っているように思います。
重ねてヴォーカルの森は元々はクラシック出身です。
4歳からピアノをやっていたという彼女の持つ素養も、そこに通じるものがあるのではないでしょうか。