4thアルバム『FRAGMENT』
感情の「fragment=欠片」を集めた作品集
4thアルバム『FRAGMENT』は藍井エイルにとって大きな節目となる作品です。
『FRAGMENT』とはある事物の「欠片(カケラ)」や「断片」を表す言葉。
今作は藍井エイルの「感情の欠片」を丁寧に拾い集めた作品集なのです。
その幅広い表現から見えるのはアニソンの歌姫という肩書を拭い捨て1人の表現者となった姿。
今回は『FRAGMENT』より先行配信された『UNLIMITED』にスポットを当ててご紹介します。
『UNLIMITED=制限はない』
MVから読み取れることとは?
まずは2019年3月17日に公開された『UNLIMITED』のMVを見てみましょう。
これまでの藍井エイル作品同様に歌詞を前面に押し出したリリックビデオの体裁を取っています。
このことから分かるのは『UNLIMITED』において歌詞が重要な位置を占めていることです。
もう1つの特徴はCGを駆使した、まるで脳波を投影しているような世界観。
そしてサビのパートで青空をバックに力強く歌う藍井エイルの姿との対比構造です。
歪な図形を映し出すCGは主人公の過去の記憶を、そして解放感溢れる空は未来の象徴だと推察できます。
ここからは『UNLIMITED』の抽象的な歌詞を1つずつ紐解いていきましょう。
過去が未来を紡いでいく...
抽象的な言葉の意味
『UNLIMITED』は過去から未来へと続く無限の選択肢=可能性を描いた物語です。
歌詞で過去・現在・未来という目に見えない対象を表現するために非常に抽象的な言葉が用いられています。
それらの言葉を1つずつ解きほぐしながら登場人物の描いた未来像を探っていきましょう。
過去に囚われて前に進むことのできない主人公
時計の針が誰かの
歪な影に怯えて揺れる
不快な過去は未来と
鏡の中じゃ手を取り歩いてる
出典: UNLIMITED/作詞:篤志, minami rumi 作曲:篤志
このAメロの歌い出しから『UNLIMITED』の歌詞の大きな特徴を読み取ることができます。
それは様々な事象の擬人化という手法です。
このことから『UNLIMITED』で歌われるのは主人公の内面世界の自問自答である可能性が出てきます。
最初のフレーズの時計、そして4行目の鏡は過去と未来を繋ぐメタファーです。
止まることのない時の流れはつらい過去を自然と消し去ってくれるような錯覚を与えます。
しかし脳の中では過去の記憶は消去されずに着々と累積されていくのです。
追い打ちをかけるように鏡は常に自身に語りかけます。
そこに映っている現在の自分の姿はまぎれもない過去の経験の積み重ねだと...。
主人公は過去のつらい記憶に囚われ未来へ希望を持つことができない状態であることが推察されます。
真実に近づいていく記憶の欠片
間違い探し 止まった景色
カタチを無くしたまま
脳裏に残る
カケラが朧げな真実に近づいてく
出典: UNLIMITED/作詞:篤志, minami rumi 作曲:篤志
Bメロのフレーズが表すのはいつまでも消えることのない過去のトラウマに怯える主人公の姿です。
人の脳は忘れ去りたい記憶を意識の片隅、つまり深層心理に整理する機能を持っています。
過去の記憶の欠片=fragmentをなかったことにしようとする主人公。
しかし鏡に映る自身の姿が語りかけます。
現在の自分の姿形、そして内面世界は過去の経験の積み重ねから作り上げられているという事実を...。
そのことと真正面から向き合わないかぎりトラウマを克服することはできません。
過去に囚われている限り、明るい未来に向けて歩き出すことはできないのです。