短い夏の日の恋と 思っていたのさ
だけど君 不思議だね 飽きさせないのさ
HOLD YOU AGAIN
西風が 優しすぎる プールサイド
LAZY LAZY LAZY アフタヌーン
出典: ラ・ヴィアンローズ/作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸
曲中のふたりの愛は行き当たりばったりで不埒な印象があります。
吉川晃司は決してチャラい人ではないのですが天然で明るく眩しいキャラクターです。
パブリック・イメージでしか語れないのが残念ですがこの曲も彼固有の軽さが爽快に描かれています。
突き放したり抱きしめたりバッタンバッタンと騒がしい恋模様です。
1984年という時代はどこか浮足立った季節でした。
経済は堅調で後のバブル経済期に向かって右肩上がりで駆け抜けます。
旧海軍エリートの中曽根康弘が総理大臣。
アメリカ合衆国大統領は俳優上がりのロナルド・レーガン。
「ロン」「ヤス」と呼ばれた日米関係が良好な時代です。
保守派が盛況な政局で独特なきな臭さもあったのですが日本経済の好調さの方が率先して時代を創ります。
「Japan as No.1」
そんな言葉が蔓延った時代です。
人々の心も享楽的な雰囲気に親しんでいました。
ふたりだけのパーティーの情景を描いた「ラ・ヴィアンローズ」の歌詞はそんな時流に乗っています。
「失われた30年」
そんな言葉が跋扈(ばっこ)する今の時代にとっては少し分かりづらいノリがあるかもしれません。
「バラ色の人生」
3ヵ国語を歌い切る
La vie en rose
La vie en rose
何も欲しくない君さえここにいれば
La vie en rose
La vie en rose
何もしたくない 夢見ることも忘れるよ
出典: ラ・ヴィアンローズ/作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸
このアルファベットの文字列はフランス語で「バラ色の人生」という意味です。
一回聴いたら忘れられないメロディと一体になった言葉。
言葉自体にメロディを感じるといってもいいでしょう。
歌詞の前半部分には英語が登場しますがサビがフランス語です。
他に当然に日本語で歌われていますから3ヵ国語で歌詞が展開します。
吉川晃司はその3ヵ国語をすべて似たようなトーンで歌いきるので不自然さを感じません。
これが「巻き舌」の成果なのでしょう。
今の喜びに身を預けていたらとびきりに素敵な気分で過ごせるという想いが炸裂します。
エディット・ピアフの影響
La vie en rose
出典: ラ・ヴィアンローズ/作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸
この言葉を当時の人はこの曲で初めて知った訳ではありません。
耳の肥えた人にはシャンソンの女王エディット・ピアフの名曲のタイトルとして馴染みがありました。
売野雅勇にとってもエディット・ピアフの絶唱が聴けるこの曲のタイトルが念頭にあったはずです。
ナチス・ドイツ占領下のフランスでエディット・ピアフが命をかけて闘ったことはあまりにも有名。
後にマリーネ・ディートリッヒもこの曲を歌い継ぎます。
彼女もナチス・ドイツへの抵抗を示した気骨の人です。
他にも黒人差別と闘うルイ・アームストロングが歌っています。
気骨がある人が愛の充満する日々を堂々と歌う。
それがこの曲の歌い継がれ方の姿です。
エディット・ピアフによる元の歌詞はイブ・モンタンとの恋愛について赤裸々に歌ったもの。
「バラ色の人生」とは未来を見据えて「バラ色」と歌ったのではないようです。
あくまでも今このときの愛の充足が「バラ色」に見えると歌ったもの。
つまり刹那で行き当たりばったりの恋でも充足した愛を感じられる瞬間という原曲の雰囲気。
この得難い雰囲気を売野雅勇はそのまま日本の1984年に移植してみせたのです。
キラーフレーズに酔う
刹那で充足した人生
なんて危険な退屈だろう
出典: ラ・ヴィアンローズ/作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸
サビを締めるキラーフレーズの登場です。
ため息混じりに吐き出されるこの言葉の甘い雰囲気にリスナーは酔います。
欲しいものはもう揃った。
「君」がいてくれるだけで人生はバラ色に見える。
そんな充足は喜びの中に自分を落ち着かせてその中から抜け出る気を失くす素敵な堕落です。
この堕落は「君」のもとから離れる気をも喪失してしまう危なさも隣り合わせだと吉川晃司は歌います。
気怠い夏の午後の情景
その場しのぎで堕落する
聞きたくもない音楽が
君を踊らせる
眼を細めため息で
リズムを取るよ
明日のことなど誰にも 解からないのさ
時を止め 君だけを抱きしめていたい
CLOSE MY EYES
夏の日に 身を任せた プールサイド
LAZY LAZY LAZY アフタヌーン
出典: ラ・ヴィアンローズ/作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸
何もかもその場任せのふたりです。
チョイスした音楽に特に興味もないけれどリズムにはノッてみせよう。
明日に対しての無関心で捨鉢な生活態度。
ここはふたりきりの楽園のような場所です。
気にかけるのは目の前の相手だけでいいという想いが滲みます。
夏の日の午後はひたすら気怠さが漂っている。
堕落に身を委ねようというその場しのぎの人生だけれど本人たちには素敵なものなのでしょう。