笑顔というレッスンを経て

浜崎あゆみ【beloved】歌詞の意味を徹底解説!理想の関係とは?あなただけにはそのままでいて欲しいの画像

明日の僕になら 少し期待しようか
くちびるの両端 ぐっと上げてみたりして

ねぇいまも滑稽かな?
まだまだ足りないかな?
ねぇあなただけは真実を見せて
馬鹿だねと笑い飛ばして

出典: beloved/作詞:ayumi hamasaki 作曲:Yasuhiko Hoshino

僕は自分なりに変わろうとするのでしょうか。

笑顔を身に着けるための訓練を始めます。

笑った顔の自然さは社会との緩衝材のように働くでしょう。

軋轢があるところでも笑顔で乗り切ることが大人になる際には大事になります。

このことは決していい側面ばかりではないです。

社会の全体主義的な傾向が人に笑顔を強制することだってあるのですから。

それでも笑える人になることは素晴らしいことです。

強制・矯正された笑顔ではなく自然に笑えることの大切さを知ることは人生の幸福に繋がります。

いつまでも茨を持ったままでは生きてゆけないことに僕は気付いたようです。

自分から進んで歩み寄ってみる必要を感じます。

好きで疎外されている訳ではなかったのでしょう。

つい心の中の棘が顔を出してしまう。

若い頃は自分の感情をコントロールするのが大変です。

しかし心を開いてみようと思い立ったのならば自分の居場所はさらに広がってゆくでしょう。

自分は自分のままでとも願う僕ですが、社会との折り合いの付け方にも関心があるのです。

成長期にはこうした様々な葛藤を心に据えたままに生きているものでしょう。

本当の評価は誰が下すのか

浜崎あゆみ【beloved】歌詞の意味を徹底解説!理想の関係とは?あなただけにはそのままでいて欲しいの画像

僕はあなたの瞳を鏡のようにして自分の姿を確かめます。

私というものの評価は自分で下しても意味がありません。

社会やコミュニティの中で実際にどのような役割を果たしているのかに本当の自分の評価が描かれます。

近しい人にとっての自分の意味というものも大切な評価でしょう。

僕はどこかで自分の刺々しさが持つバカバカしさに気付いているのかもしれません。

刺々しさが若さに由来する一過性のものだと自覚しているのでしょう。

その点で自分はまだ子どもっぽくはないかとあなたに尋ねます。

この世界で唯ひとり信頼できるあなたにだけは素直な評価を期待するのです。

少しお姉さん的な存在であるあなたは僕の良きアドバイザーでもあります。

若い頃にこうした女性をパートナーにできたことは僕にとってこの上ない幸せでしょう。

この愛を永遠に手放したくないと夢見ているフシさえあります。

少年がこの愛に希望や未来を託しているのは深い訳があるのです。

その深い謎解きはもう少しあとで展開いたします。

2011年の歌の宿命

東日本大震災という爪痕

浜崎あゆみ【beloved】歌詞の意味を徹底解説!理想の関係とは?あなただけにはそのままでいて欲しいの画像

あの夜に話してた 夢の続きを
まだ覚えていてくれてますか
なにひとつ色褪せる事なく今も
鮮やかなまま僕の心 支配してます

ねぇあなただけには褒められたい
人が僕を否定しても

出典: beloved/作詞:ayumi hamasaki 作曲:Yasuhiko Hoshino

僕は過去のある一夜に話したことを回想します。

あの夢を覚えていますかとあなたに尋ねるのです。

そろそろ種明かしが必要な時間かもしれません。

浜崎あゆみの心のどこかに2011年3月11日の東日本大震災の記憶が影を落としているはずです。

彼女は直截的にはこの震災について触れてはいません。

それでも歌詞のそこかしこに震災の朽ちた痕がそれこそ刺々しく残っているのです。

2011年に作品を発表するアーティストは皆、心のどこかでこの震災について触れずにはいられません。

僕が思い出した夜は震災前の出来事だったのでしょう。

まだ漠然と夢は続くと信じられていた時期のことです。

しかし3月11日という日付がこの国のすべてを「前」と「あと」で区切るようになりました。

日本を超えてこの世界のあらゆる繊細な魂が戦慄を覚えた日です。

あれから日々は変わり果てたようにすら感じられます。

しかし僕は震災前の想いをしっかり胸に抱いて生きていることをあなたに告げるのです。

刺々しさを心に抱えた少年が「です・ます」と丁寧に言葉を投げかけます。

愛するあなたへの敬意を改めて浮き彫りにさせるのです。

お互いのささくれだった気持ちを労るように生きてゆくしか私たちに道はないと感じられた日々のこと。

私たちは旧い言葉の中から「絆」という単語を発見しました。

平時にはどこか偽善的に響く言葉でしょう。

しかし千年に一度と呼ばれる大災害の際にはこの言葉で救われた人もいるはずです。

一方で日頃から何かしら孤立していた若者がある日この言葉に覚醒めるのも白々しいことでしょう。

それでも僕は自分の身の回りにおいて生命を繋ぐロープになるものは何かと振り返ります。

その中でひときわ輝いているのがあなたとの「絆」であったはずです。

境遇を超えて対話をする必要

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僕はあなたとの紐帯を大事にしようと改めて感じます。

世界を敵に回すような状態になっても、あなたにだけには見捨てられたくないと願うのです。

僕にとって生命の線を明日へと伸ばしてゆくためのただひとつの根拠はあなたという存在でしょう。

あなたには否定されないような立派な人間として生きてゆきたいと願うのです。

実際に現実を乗り越えてゆくにはもっとたくさんの社会的な基盤のようなものがないといけません。

若い僕はその点を見過ごしてしまうのです。

あなたはそうした僕の甘さをそっと叱ってあげればいいでしょう。

僕よりも年長であるあなたはもう少し社会というものを知っています。

東日本大震災のようにその社会の存続すら危うくなる大惨事が起きてしまいました。

このような事態を前にするとなおさら僕が成長途上であることが分かります。

ふたりの智慧を出し合いながらこの局面を乗り越えていって欲しいと願うばかりです。

浜崎あゆみが若い人と年長者という設定をしたのはなぜか。

年齢や境遇を超えた対話の必要をこのときに感じたからかもしれません。

「beloved」される未来へ

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いつまでも変わらない あなたのままで
ただそこに そこに居て欲しい
いつまでも変われない 僕のまんまで
ぎこちない笑顔だけど側に...

ねぇあなたも本当は そんなに強く
ない事を 僕は知ってます
僕がしてあげられる 事なんてなにも
ないけれどその心いつも 抱きしめてます

出典: beloved/作詞:ayumi hamasaki 作曲:Yasuhiko Hoshino

いよいよクライマックスです。

最後にして浜崎あゆみは直截的な表現でリスナーへと訴えかけます。

僕も弱いけれどあなたもそれほど強くはないでしょう。

ましてこのような大惨事を目の前にしてしまったとき思考はストップするはずです。

浜崎あゆみがアーティストとしてできることは限られています。

何とか歌詞の中に生きるためのメッセージを伝えておくことくらいしかできないのです。

それはいつもリスナーの側に寄り添って生きていきたいという決意表明になります。

普段からでもリスナーとの「絆」は当たり前のことなのでしょう。

それでも2011年の日本社会でこの言葉を口にする意味はあまりにも重いです。

改めて犠牲者に哀悼の意を表しながら、生き残ったものへあなたと呼びかけました。

そして「です・ます」とポップ・ソングにしては丁寧な言葉で敬意を表します。

浜崎あゆみは東日本大震災のために何か直截的なメッセージを発する代わりにドラマを届けました。

歌詞を頑張れの掛け声で埋めることで逆に被災者を追い込むような真似はしません。

あなたのすべてをそっと抱きしめていますとだけ祈るように言葉を紡いだのです。

これこそアーティストの天分に頼った芸術への昇華になります。

ラブバラードでありながらささくれだっていたのは過酷な現実の反映です。

完璧な主人公を描かなかったことの意味を改めて考え直します。

誰しもが胸に刺々しい思いを抱えていました。

身内や家族を失った人たちは自然災害というものへどのような憤りを向けたら良かったのか悩みます。

人災ともいえる福島第一原発事故などで住んでいる土地に帰れない人々も生まれました。

「絆」という美しい言葉では拘束されない生の感情というものが人間にはあるのです。

beloved

愛されているということ。

そのドラマを一筋の光として浜崎あゆみは提出します。

普段の生活だけではない極限状態にあっても人々を繋ぐのはやはり愛でした。

不器用な少年と年長の女性。

僕はあなたの側にいたいと願うのですが、肝心のあなたの心模様はこの歌では明示されていません

あなたの反応はブラックボックスの中です。

僕の希望に焦点を絞って浜崎あゆみは歌詞を紡ぎました。

あなたというのは2011年には途方に暮れていたリスナーの皆さんのことです。

今でも東北の復興は途上段階でしょう。

震災の爪痕は当事者にとってはまだまだ生々しいです。

少しずつ暮らしを立て直していますが、あの大打撃からこの国はどこまで立ち直っているでしょうか。

共助・公助の多面的な展開によって優しさを持ち寄る社会

主人公を爪弾きにしない寛容な社会。

そうしたものが培われないとおそらく本当の復興は訪れません。

浜崎あゆみが提出した「beloved」という曲の課題は残念なことにまだまだ生々しいものなのです。

一方でここにこそ理想の人間関係が成立していることに気付かされます。

私たちはこの曲をモデルにして生きてゆくのが最適解なのではないでしょうか。

その分、この曲は生命力を獲てこの先も私たちの胸を焦がすでしょう。

どうかこの切ない祈りのようなものが叶う日が来るのを待ち望んでいます。

浜崎あゆみの大きな愛によって「beloved」されているのは私たちでもあったのです。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEと浜崎あゆみの軌跡