落胆と浄化
桜のピエロ
仲間をすべて失うというのは、大変な落胆をもたらします。
仲間ほど生きる上で貴重なものはないでしょう。
なにがあったのか定かではありませんが、避けようのない亀裂も起り得ます。
人間の絆とはそういうもの。
時の流れの中で、誰が悪いのでもなく、そういうことは起きる。
そのときひとは、耐えなければなりません。
散った桜の花びらを集めながら。
syrup16gらしいイメージです。
この痛みが、彼らです。
この果てに、突然浄化作用が起り、救われるのです。
悲劇を脱ぎ捨てる
桜の下のピエロ。
思いっきり泣いた後で、なぜか気分は楽になります。
忘れてしまうというのではない。
感情を思いっきり吐き出したら楽になる。
世の中にはピンチやトラブルへの対処がうまいひともいます。
さっと身をかわし、柔軟に対応する。
しかし逆に、どうしても無器用で、正面からぶつかり、こじれさせ、うまくいかない人もいる。
スッと横にズラせばいいのに、できないのです。
逃げることができない。
歌い手もそういう人のようです。
とことん直球で対応してしまう。
しかしそういう部分があるからこそ彼にしかできないことがある。
彼だけが創り上げるものがあるのです。
2008年のアルバム
アルバムの曲
僕が聴きたいのは
真っ白な歌で
どこまでも澄んだ
まぶしい闇
光を捨てて捨てて捨てて
君を壊すのはイメージの彼方
普通の未来を描けたなら
出典: 君を壊すのは/作詞:五十嵐隆 作曲:五十嵐隆
バンドの解散の理由のひとつに創作活動に疲れたことが告げられます。
『普通の~」以下の歌詞は、すこし一般人として生活をしたいという本音の告白です。
別れのアルバムにふさわしい、穏やかな、静かな曲もあります。
ラストの、「夢からさめてしまわないように」です。
夢からさめてしまわないように
夢からさめてしまわないように
夢の先のことを考えて無くのはもうやめておこう
苦しまないで後悔などしないで
皆何事もない日々が当たり前なんて思っていないから
君からもらった空の色
風に吹かれ歩いてゆく
君から学んだその後で
僕は何を返すんだろうか
逢いたいよ
出典: 夢からさめてしまわないように/作詞:五十嵐隆 作曲:五十嵐隆
夢から覚めない...。
初期の名曲「生活」でも、夢から覚めるか覚めないかの間際が描かれていました。
夢のなかにいるような、穏やかな気分が覚めてしまわない事を願う気持ちの状態です。
この歌ではメンバーとの別れに重ねて、ある女性の思い出が歌われています。
そして今度は穏やかな、もうすこし時間を経た後での、回想です。
平穏な日々ばかりではない。
生きていると様々なこと、心に波風をたてるようなことがある。
メンバーとの別れは、そのひとつでしょう。
その悲しみをまだ抱えながら、昔別れた彼女に語りかけているのです。
あるいは、初期によく出てきた、母親のことかもしれません。
辛いことがあった時、親しかったひとに語りかける。
ぼんやりした時ひとがするごく当たり前のことです。
空の色を見るなんてことは、君がいなければ僕は知らなかった。
今も風の中を散歩しているのです。
君には色んなことを教わったけれど、何を恩返しすればいいかわからない。
そして素直に、逢いたいともらすのです。
アルバムラストを飾るこの曲は、うってかわって穏やかな雰囲気です。
感情をもてあますこともあります。
どうしていいかわからないこともあります。
でも日が過ぎて、時間がたち、心が静かになって...。
そして思うのは、やはりあなたに逢いたいという事。
離れていても、心の中で呼び返すのです。
最後に
「さくら」の解説、いかがでしたか。
素直に、まっすぐ、別れの心情が歌われています。
他の歌と同じように、あっけらかんと本当の話が歌われているようです。
すこし弱く、もろく、じたばたもせず、流されてゆくように。
別れは別れであり、それは受けとめています。
はっきりとさようならを言うために、あれこれ考えたようです。
syrup16gは2008年に解散した後、またもう一度、2014年から再始動します。
五十嵐はソロで始めることもできそうだったのに、やはり同じ仲間を集めました。
このあたりにも、彼らの本質が出ていると思います。
バンドの良さとはこういうものだと思わせてくれる例です。
この曲が作られた理由も、曖昧ではなく必然的なものだったのでしょう。
もう一度出会うために、一度バラバラになった後、また出会うために作られたのです。