僕は暗くつらい日々であっても自分なりの行動指針のようなものを持っています。
それは僕固有の正義という言葉に還元できるでしょう。
この頃の僕は絶好調とはいえません。
しかし大切な人を求めて自分の道をゆくという気持ちは捨てないのです。
僕を駆り立てるものとは何でしょうか。
まだここでは明示どころか暗示もされていません。
しかし僕が憂うつな毎日を送っていても外の世界に大事なものを求めているその必死さを感じます。
人間というものは生まれついてから社会的な存在です。
広く社会と接する必要を感じなくても、どこかで大切な人を求めるでしょう。
僕も大切な人のために気持ちを外へ向けます。
憂うつというものに没入し続けたりはしません。
むしろ大切な人に会いたい気持ちが胸の中で大きくなっているのです。
いまの僕は孤独かもしれません。
しかし孤独な自分に満足もしていないのです。
僕の出発は
地上ではなく地中に訊く
思い出になれない過去 永久リピート 頭ん中
未だ忘れられない 忘れ物
謎々解らないまま 行かなくちゃ 夜の中
今出来た足跡に 指切りして
出典: 月虹/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara
歌詞は人というもののかなり深いところに眠っている事柄に訴えかけます。
地上の話から地中のものごとへ話題を移したような雰囲気さえ抱かせるのです。
それは僕の記憶の中でずっと存在感を示している事柄なのでしょう。
どうしたって意識の中にまで現れてしまうものと僕は対峙しています。
藤原基央の言葉は分かりやすいワードしか使わなくてもどこか抽象的です。
記憶というこの手に触れることができないものについて描いているのですから仕方がありません。
僕にしても出発しなくては行けないという思いは強くあっても何が自分を突き上げるのかは分からないです。
理由は謎とはいえしかし青年は荒野を目指して夜の道を歩きます。
生命に理由はあるのだろうか
同じ様な生き物ばかりなのに
どうしてなんだろう わざわざ生まれたのは
出典: 月虹/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara
私たちは人類としてひと括りにできます。
ひとりひとりを見分けられることができるのは同じ人類で些細な違いを気にするからです。
しかし例えばオランウータンの個体を見分ける目を私たちは持っているでしょうか。
僕はこうした素朴な疑問を抱いています。
みんな同じようなところがあるのに、なぜ人はひとりひとりに生の意味があるのかと問うのです。
これは僕自身が生まれてきた理由というものを問うことでもあります。
人間存在というものは高い知性を持っているので実存というものについて考えてしまうのです。
存在の根本理由は何だろうと思い悩むのは人間だからでしょう。
草花は自分の美しさが何のためにあるのかを自覚してはいません。
花粉を運んでくれる虫のために魅力というものを持っています。
しかしそれは集団としての魅力です。
草花というものが個体差におけるそれぞれの魅力というものを自覚している訳ではありません。
しかし僕のいうように人間に限って個体における存在理由を問う性質があります。
僕はその不思議さに目を啓いてゆくのです。
とても大きな歌になる
超越的なものへの訴えかけ
世界が時計以外の音を失くしたよ
行方不明のハートが叫び続けるよ
あっただけの命が震えていた
あなたひとりの 呼吸のせいで
出典: 月虹/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara
僕に加えてあなたという存在がようやく登場します。
すべてのエピソードがあなたのために向かっているのがお分かりいただけるはずです。
しかしあなたというのが具体的にどのような人物なのかが分かりません。
僕にとってあまりにも重要な存在であることは定かなことでしょう。
それでもあなたという存在は一向に具体像を示しません。
どのような容姿をしているのかなどはまったく不明でしょう。
ただ、何度か読み直すとぼんやりとしたイメージが確信に変わってゆきます。
あなたはおそらく世界というものにとっても重要な存在だと気付かされるのです。
僕どころか世界のときの流れ以外を司るようなその巨大な存在感が見えてきました。
あなたのために心を持つものや生命というものでさえその存在が大きく動かされるのです。
つまりあなたというものの超越性が明らかになってゆきます。
これ以降の歌詞を読んでゆくとさらにそうした確信が深まるでしょう。
先を見てゆきましょう。
人間存在のサイズを超えながら
いつかその痛みが答えと出会えたら
落ちた涙の帰る家を見つけたら
宇宙ごと抱きしめて眠れるんだ
覚えているでしょう
ここに導いた メロディーを
出典: 月虹/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara
この曲「月虹」は僕の闇の描写から始まりました。
中盤になると歌詞が宇宙的な規模にまで大きくなっています。
宇宙の中で僕は自分の生命の意味というものさえ問い始めるのです。
しかし出発点は僕という個人の中にはっきりとある心の傷でしょう。
この傷もいつの日かその存在理由や解答というものに出会えると僕は信じます。
実際に胸を痛めている事柄から出発して宇宙というものや生命というものに問うのです。
さらに読みすすめると僕は普遍的な原理というものを見つけています。
それは音楽での大事な旋律のようなものだと歌うのです。
僕は自分の傷に意味を見出だせるのならば、その日にこの宇宙ごと愛せるともいいます。
「月虹」というタイトルのとおりにこの曲は人間固有の小ささを超え出るような力を持っているのです。
月と虹が同時にそのままあるようなことを藤原基央はイメージしました。
その美しい在り方の圧倒的な超越性というものを歌の基軸に据えるのです。