「ESCAPADE」が示すもの
2018年4月11日発表、Official髭男dismの最初のフルアルバム「エスカパレード」。
このアルバムのタイトル・チューンである「ESCAPADE」の歌詞を解説します。
新時代のピアノPOPを奏でる彼らですが、この曲ではブラスユニットも導入しました。
アレンジャーは2人組のCHRYSANTHEMUM BRIDGE(クリサンセマム・ブリッジ)です。
外部のアレンジャーを起用して新機軸を打ち出しました。
そのサウンドも歌詞も祝祭的でハッピーさを前面に押し出します。
理想の女性と出会って瞬時に恋に落ちた男性の浮かれる気持ちを豊富な語彙を用いて歌詞にしました。
Official髭男dismのそのサウンドの新鮮さはもちろんですが藤原聡の言葉の感覚にも驚かされます。
J-POPに固有の侘び寂び、翳りのようなものが一切見当たらない新世代の歌詞になっているのです。
「ESCAPADE」とは突飛な行動という意味ですが歌詞にはどのように反映されているでしょうか。
この曲の歌詞を丁寧に解説して恋の素晴らしさを浮き彫りにしましょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
恋の悦びを告げたい
韻を踏んだ歌詞に注目
何度見つめても足りない
指でhold me tight
まるで夢みたい
どこの誰にでも言いたい
想い伝えたい
募りゆくばかり
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
歌い出しの歌詞になります。
登場人物は語り手の僕とヒロインの君です。
僕は君にひと目で恋に落ちてしまったよう。
とにかく君の素晴らしさを豊富な語彙を駆使して様々に形容します。
ここで見られるドラマのすべてに恋の素晴らしさに打ち震える僕の心模様がにじみ出ているのです。
藤原聡はそのポップなサウンドの志向ゆえか盛んに韻を踏む傾向があります。
もちろん伝えたい内容の方を重視しているのですが言葉の音韻に関しても可能な限りこだわるのです。
ここでご紹介したラインは末尾がほぼ「たい」で揃えられています。
音韻を揃えることの効果や楽しさもさることながら恋に落ちて夢心地になっている僕が幸せそうです。
若い頃の恋は胸がはち切れるような気持ちになったものでしょう。
「ESCAPADE」という楽曲の素晴らしさは恋の悦びを素直に表現しているからです。
僕はまっすぐにこの恋に向かってゆきます。
一方で言葉の豊富さがこの曲の解釈までも豊かなものに変えてくれるのです。
僕の性格も可愛いもの
僕は恋に迷うことがありません。
君は他の女性と比較できない特別な存在として僕の胸のうちにあるのです。
僕の視界には君しか見えていないのでは思わされます。
一身を捧げるような僕の恋心は時間を追うごとに増してゆくのです。
世界中に宣言したいような恋心。
どこまでも幸せな僕の性格に感化されてこちらまで嬉しい思いを共有できるはずです。
君の素晴らしさについて語り出して歌詞すべてを埋めてしまったという印象を受けます。
僕は君と出会った事自体に奇跡の片鱗を見出しているのです。
ハッピーさや多幸感のようなものによって冷静さを失っている印象もあります。
恋ってものはこういうものじゃないと嘘かもしれない。
そんな想いを私たちに抱かせるくらいのはしゃぎように驚かされます。
若い頃は恋に落ちると誰かに相談したくなるものです。
しかし僕のように誰彼構わずに恋する気持ちを伝えたいという人は稀かもしれません。
秘匿にしたい恋心というものもあるでしょう。
しかし僕はすべてをオープンにして自分の恋を高らかに宣言し「たい」のです。
「たい」ですから現実にはそうした勇気はないのかもしれません。
「ESCAPADE」の魅力は君の可憐さよりも僕の可愛い性格にあるのかもしれません。
人生は始まったばかり
軽快なビートに乗っかって
余生の相場を狂わして
人生はまだイントロなんだって
僕に耳打ちした
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
「ESCAPADE」、つまり突飛な行動やいたずらとは君のこうした言動を指すのでしょう。
君が起こした魔法のような出来事を描いているのです。
音楽用語が盛んに現れるのが特徴的でしょう。
具体的なことを君はいいません。
むしろ抽象的なアイディアを僕に吹き込んで困惑させるのです。
君には固有の軽やかさがあります。
僕は君のこうした特徴に接して一発で恋に落ちてしまいました。
余生を考えるには僕も君もまだ若すぎるのも可愛らしいでしょう。
君が僕に囁いたとおりに彼らにとって人生は始まったばかりです。
このことは自明なことすぎると考えるのは歳を経た人の感想かもしれません。
何歳であろうとも人生を積み重ねてきたという実感は無視できないものでしょう。
若い人も短い間ではあるけれど懸命に生きてきた自負があります。
僕はその自負を根拠にこれから先の人生を余生と表現しました。
しかし君はそんなのまだまだ先のことよと耳打ちするのです。
そうなると僕は君に一歩先を行く同年代の女性の姿を発見したことになります。
若い頃は同じ歳頃であっても女性の方が男性よりも先に大人な思考に達するものです。
僕は君による「ESCAPADE」、いたずらによってこの先の人生がまるで変わってしまいました。
僕が感じたセンセーション。
若さって本当に素晴らしい可能性を秘めているのだとまぶしく感じてしまいます。
Official髭男dismのファンは若いリスナーが多いでしょう。
一方で歳を重ねたリスナーも彼らから感じる若さを新しいエナジーに変えられるはずです。
もう一度、僕と君がいる季節へ帰りたくなるくらいに魅力的な世界が広がっています。
君は神々しい
公園は本当にあるのかな
この世界に溢れかえってる矛盾を全部解決するかのような
華奢な体がそこに宿ったスマイルが
ありふれ過ぎた日常に新しくくれた曲がり角
曲がって突き当たりの公園で偶然見つけた神様
手を取り合って踊りませんか?
Ah Ah
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
サビの歌詞になります。
あふれかえる言葉の数々に驚くでしょう。
藤原聡の歌詞は情報量が豊富です。
とにかく君の素晴らしさを歌い上げるのに様々な言葉を動員します。
若い女性の奇跡的な美しさにハッとさせられる経験は男性ならばよく分かるでしょう。
世界の美しさすべてを結晶したような若い女性。
女性にとってこうした描写は大袈裟に感じるかもしれません。
しかし若い男性の瞳には恋している相手の女性の姿は皆、これくらい美しく映っているのです。
歳を重ねるごとに魅力を増す女性もたくさんいます。
一方で若さというもの自体が奇跡なのではと思わせる少女もいるのです。
僕と君は同じ学園や職場にいた訳ではありません。
ほぼ偶発的な出会いによってめぐりあったようです。
ただこの偶発的な出会いに関してはドラマチックな言葉に昇華されすぎています。
本当に曲がり角の公園での出会いなのか、比喩でこうした表現に変えたのか区別できないのです。