僕の退屈な日々が一変
この偶発的な出会いの描写が比喩であるならばその真意を探さなければいけません。
漫然と日々を過ごしていた僕の前に微笑を口元に浮かべた小柄な君が現れたようです。
昨日と今日の区別もつかないような退屈な日々がこの出会いによって一変します。
これまでの僕の人生を曲げてしまうほどの力を君は持っていました。
僕は君との出会いの衝撃を持ちうる語彙すべてを動員して表現してくれます。
この公園が実在するものか比喩なのか判定不能なほどに多幸感で舞い上がっているのです。
僕にとって君の美しさは神々しいものとして映ります。
これまた女性にとっては大袈裟な表現に感じられるかもしれません。
しかし思春期の恋において男性は間違いなく相手に神性を発見するのです。
いつまでもこうしたピュアな想いを女性に対して持ち続けて欲しいものでしょう。
男性はいくつかの恋を経験するうちにこうした神性を発見できなくなってしまうのです。
僕にとって君は最初の恋の相手なのかもしれません。
初恋とは明示されていません。
しかし相手の美しさに神々しさを見出だせる感性は初恋ならではのものでしょう。
僕は女神たる君の手を取って一緒に踊りたいと歌います。
この点では僕はまだ大胆さを兼ね備えているといえるかもしれません。
あまりの神々しさに触れることどころか話しかけることにも壁を感じる男性もいるのですから。
若い恋の難しさはかように恋愛を理想化しすぎてしまうことかもしれません。
もっとカジュアルに恋愛できるようになるまで、人は経験を積まなくてはいけないのです。
成長する過程での愛
ふたりの明るい未来を想像して
どんな時でも守りたい
ただのby your side
いつでもウェンザナイ
どこの誰にも渡さない
頬にコピーライト
つけさして!いいじゃない!
右も左もわからないで
ストイックにかつ無我夢中に
なる君のこと羨ましいなんて
少し思ってしまった
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
藤原聡はここでも末尾の韻を「ai」に揃えようとします。
内容の方は君を僕のものにするために様々な言葉を繰り出すのです。
まだふたりが付き合う前の僕ひとりの盛り上がる心を描きます。
神の周囲で守護する天使たちのような役割を果たそうとするのです。
中世の騎士道精神を思い起こさせるような叙述もあります。
君に笑顔はこの世界の奇跡ですから僕は保存活動をしているかのように献身的です。
君の周囲には他の男性も群がっているのでしょうか。
この歌詞には明示されていません。
それでも僕は君を自分だけのものにしたい想いを隠さないのです。
僕には若さゆえの勇気がみなぎっています。
そのために君の顔に僕の著作権表示をさせようなんて意気がるのです。
こうした僕の振る舞いは歌詞の中では可愛いものと思えるでしょう。
リアルでやったならばかなり引かれるでしょうから若い男性は誤解しないでください。
僕の君へのアプローチは実を結ぶのかどうかがこの歌詞ではブラックボックスの中です。
それどころか君の反応のようなものさえ描かれていません。
私たちリスナーはふたりが結ばれる明るい未来を想像するしかないのです。
君は人生のモデルでもある
君の性格についての描写がまたあります。
Bメロは君の描写のためにスペースを用意しているのでしょう。
君は何に関しても興味津々な模様。
実際に何に夢中になっているのかはまた明示されません。
あらゆることに興味を持って生きる君の姿に僕は敬愛の念を示すのです。
僕の方はといえば君が目の前に現れる前は平々凡々とした日々を漠然と生きるだけでした。
君と出会ってからの僕は生まれ変わったような印象さえ抱かせます。
僕には君のように我武者羅に生きたいという想いが芽生えているのかもしれません。
若い頃は身近な存在に刺激を受けて成長してゆくものです。
男女の関係だけではなく人間の成長過程として理想的な関係が生まれているのかもしれません。
いよいよクライマックスに向かいます。
先を見ていきましょう。
「ESCAPADE」の狙いとは
荒唐無稽な表現が続く
この世界に敷き詰められた夢も全部叶え尽くすかのような
ふたつの光ホワイトよりも白い声で
断崖絶壁の夜空も吹き飛ばすほどの風が吹く
銀色の月のその裏側で居眠りしている神様
奇跡を頂きありがとサンキュー!
Ah Ah
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
藤原聡は僕の口を借りてまた君の素晴らしさを盛んに強調します。
大袈裟すぎるその表現がこの曲の歌詞の肝になっているのです。
よく見てゆくと気になる表現があるので仔細に見ていきましょう。
この世界にあるすべての夢を叶えるのはふたつの光だといいます。
ここで僕は君とすでに寄り添っているという解釈も可能でしょう。
しかしその後に錯乱したような荒唐無稽な表現が続くので解釈が難しくなります。
その後のラインはもはや正常な精神を保っていないかのようなナンセンスさを見せるのです。
こうした言葉遊びにも似た藤原聡の歌詞はちょっと天才的かもしれません。
軽妙なポップスでこうした言葉の遊びをするのは桑田佳祐や小沢健二以来の才能かもしれません。
でたらめでも無理矢理でも伝えたいのは若い恋が弾ける躍動感でしょう。
若いリスナーの実際の話し言葉に歌詞を近付ける作業など細かい箇所まで目配りされています。
どこか破天荒な印象は僕と君の恋が規格外であることを表現するのです。
ダンスに招待されたのは誰?
この世界に溢れかえってる矛盾を全部解決するかのような
華奢な体がそこに宿ったスマイルが
ありふれ過ぎた日常に新しくくれた曲がり角
曲がって突き当たりの公園で偶然見つけた神様
手を取り合って踊りませんか?
Ah Ah Ah さあ!
出典: ESCAPADE/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
世界は矛盾に満ちています。
解決の道筋はどの問題についても深刻な行き詰まりを見せているのです。
藤原聡はだからこそひとつの恋の中に解決のヒントを授けようとしました。
大雑把すぎるいい方をすれば愛があれば地球は救えるのです。
その愛は異性愛だけを指すものではありません。
隣人愛・人類愛のような愛の拡張概念が必要でしょう。
しかし基礎になるのは人が人を愛するという単純な現象です。
この基礎から出発してより大きな愛へ進めてゆくうちに大方の問題は解決するでしょう。
なぜ問題解決が膠着状態にあるのでしょうか。
おそらく愛の拡張に限界を設ける人々があまりにも多いからでしょう。
また自分の選挙区の有権者のことしか考えない為政者が国政を握っています。
愛はこうした偏狭さを排斥するはずなのですが自己愛に塗れた為政者には理解不能な事柄なのでしょう。
「ESCAPADE」
僕が踊りたい相手は君だと描かれるのです。
世界のあらゆるものの中で僕が一番愛おしく思う存在が君であります。
君は異性としての魅力だけでなく人間としての生き様の立派さで僕を刺激するのです。
この曲の歌詞には音楽をモチーフにした様々な表現が現れます。
僕が君とまずしたいことが音楽をバックにして踊ることであることなどを見てください。
随所にこうした音楽に関わる要素があるのです。
藤原聡は本当に音楽を基準にして様々な物事を見ている人なのでしょう。
ブラスユニットを導入して音楽としての楽しさをさらに深めました。
饒舌なほどに歌詞を詰め込んで若い恋を祝祭の中で盛り上げます。
Official髭男dismは欲張りなくらいに様々な工夫を凝らすのです。
よく練られているものも勢いだけのものをごった煮のように混ぜ込みます。
若いリスナーの支持を広く獲たのもよく分かるはずです。
歌詞の中に魅力をいっぱいに詰め込むために最大級の配慮をしているのですから。
僕と君のロマンスはまだ始まったばかりです。
この先のドラマは若いリスナーがご自身の人生の中で再現してください。
僕の最後の問いかけはリスナーに向けた言葉でもあります。