主人公を狂わせたものの正体が語られるのがこのサビの部分です。
きっかけは小さなものだったのでしょう。
相手の、仕草、声、人間性に惹かれ、身体を重ねるごとにひとつになる体温。
これらが少しずつ主人公の中にある相手への愛情を膨らませていくことになります。
しかし会う時間と場所を限定され、自分と会っていない時はパートナーに抱かれている相手。
全てを自分のものにできないというもどかしさが歪みとなって心を支配していきました。
そんな日々を送るうち、主人公の中にあるタガが外れ、軋み、大きな渦となって飲み込みはじめます。
欲望という大きな渦。
欲望とは人間が抗うことができない最も正直な感覚です。
この感覚に飲み込まれ、社会の中で生きていく上で重要な倫理観という部分が消えていきました。
そして感情の赴くままに相手を求めるという大きな流れに身を任せはじめるのです。
そんな想いを比喩的に表現したもの。
それが「排水溝に流れ込む渦」だったのです。
儚さの中にある真実
あなたを想うあまり 夜ごと僕を誘う甘い刹那
人は儚いものに なぜかこんな惹かれ続けてしまう
出典: 渦/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
会っている時間は言わずもがな。
夜になり、会う時間が近付いてくると相手を求める気持ちは大きくなっていきます。
でもまだ相手の家にはパートナーが居る時間。まだ行くわけにはいかない。
そんな状況にもどかしい気持ちが募っていきます。
相手とはスキマを縫うようにしてしか会えず、バレたら全てを失う危険を孕んだ儚い関係です。
しかし、だからこそ相手に惹かれているのかもしれないとすら思ってしまうほどに歪んだ想い。
もはや後戻りはできないのです。
これが主人公にとっての真実の愛なのですから。
愛欲に塗れた許されざる関係
さらなる深みへ…
どこか繋がるはずの排水溝を
長い髪が絡んで塞いでいく
そして行く先を無くしたのが
ここにあるたったひとつまぎれもない真実
出典: 渦/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
渦に飲み込まれることで欲望の流れに身を任せているのは間違いありません。
しかしその渦の向こう側。流れた先に行き着く場所。
それがおそらく正しい関係を指しているのでしょう。
正しい関係。
つまり正式な夫や彼氏という存在です。
しかしそこには、決して振り向いてくれない相手の存在という大きな障害がありました。
そうして行き場をなくした主人公の愛は滞り、その場で渦を巻き溜まっていきます。
それ以上先に進むことも、戻ることもできない状況。
それは本来踏み込むべきではない修羅の道だったはずです。
しかし今の主人公にとってはそれが全てであり、真実の愛の形になってしまっています。
これらのことを複合的に考えると、パートナーが居るのは相手のみで、主人公は独りなのでしょう。
何にも縛られず、抑制されることもなく、外的圧力がかからない治外法権のような場所にいるのです。
だからこそ自由に動けて、相手に合わせることができて、相手に陶酔することができる。
そしてどこからも救いの手が差し伸べられることはないのです。
こうして主人公はさらなる深みへと…大きな欲望の渦へと沈んでいきます。
自分のものにならない苦悩と、だからこその快楽
もう抜け出すことはできない
合わせた指先から かすか僕に届く甘い鼓動
塞いだ唇から 不意にこぼれ落ちる甘い吐息
あなたを憎むほどに 揺れて乱れ叫ぶ僕がいる
人は儚いものに なぜかこんな惹かれ続けてしまう
出典: 渦/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
どんなに尽くしても、どんなに愛を注いでも、自分のものになることはない相手。
時間や場所の制約を受けてまで、それでものめり込んでしまう魅力を持った相手なのです。
だからこそ燃え上がり、引くタイミングを失い、さらに追いかけてしまう主人公。
相手も少しでも冷たい態度を取ったり、引いてくれたらいいのにさらに食いついてきます。
「どうして欲しいの!?この関係を続けてどうなりたいの!?」
そんな想いが込み上げてきても、唇を重ねたらそんな言葉も飲み込んでしまいます。
一緒にいる時間、身体を重ねているその瞬間は、主人公だけのもの。
考えれば苦しいけれど、その間は何も考えずに、ただただ欲望に身を任せて快楽を貪り続けます。
そんなカリソメの関係に心身の全てを捧げ、完全に相手の手の中で転がり続ける主人公。
欲望によって狂気に満ちていき、さらなる渦の深みへと沈んで行く主人公の物語、いかがでしたか?
これでこの曲の解釈を終わります。
まとめ
明るい曲調でポジティブに歌うイメージの強いポルノグラフィティ。
その中において、今回ご紹介した『渦』はかなり特殊な楽曲になります。
初期はこのようなダークロックも演奏されていましたが、Tamaさん脱退以降少し減った印象です。
ポルノグラフィティはどのような曲調であれ、恋愛を歌った感情の描写を得意としています。
そして数々の名曲を世に残してきました。
そんな曲たちをファン目線でランキングにした記事があるのでご紹介!