ライオンは自身の最強の遺伝子を子孫に残そうとします。

そのためにライバルたちと戦い、最も強いオスとしてメスに選んでもらうのです。

そして一説によりますと、ペリカンは子孫への愛を強く持った生き物のようです。

またすべての人への愛に満ちたキリストのごとく、その生まれ変わりとも言われていたようですね。

そういえばアメリカの漫画にはペリカンが人間の赤ちゃんを運んでくる描写もあります。

相手が誰であれ、大いなる愛の力と惜しみない母性本能によって包み込んでくれる存在。

主人公は、この男性とならきっと終生、より添えると感じたのかもしれませんね。

さて陽水がこの事を知っていたのかどうかは定かではありません。

しかし、それを知って歌詞を作ったとしたら恐ろしいくらいの先見の明といえるでしょう。

ペリカンに例えられた主人公の女性は、どんな運命も受け入れる出来過ぎた女性だったのです。

2人の関係性は?

仲睦まじいお似合いのカップル

夜を2人でゆくのなら
あなたが邪魔者を消して
あとを私がついてゆく
あなたのあしあとを消して
風の音に届かぬ夢をのせ
夜の中へまぎれこむ

出典: とまどうペリカン/作詞:井上陽水 作曲:井上陽水

この2人、実際の男女に当てはめたらどうなるのでしょうか?

まずはっきり言えるのは、この2人は運命の元に出会ったカップルです。

非常に仲睦まじく、そして双方が互いのことを信頼しきっています。

主人公は男性の邪魔にならないよう、配慮して行動しています。

男性は主人公からの指示や言いつけに忠実です。

こんなお似合いのカップル。なかなかお目にかかれないほどです。

男性は裏街道を歩む人生の人?

歌詞をなぞっていくと、気になる描写がたくさん出てくるのがこの楽曲の特徴です。

どうもこの2人はまっとうな生き方を行っているように見えません。

男性は人目を避けて昼はじっとし、夜の仕事にいそしんでいるようです。

それを主人公は陰から助ける役割を負っているようにも映ります。

もしかしたら男性は用心棒のような仕事をやっているのでしょうか?

主人公の女性は、男性に身の危険の及びそうな人物が近づいてくるのを見張っているようにも見えます。

もし仮に2人の素性がそうだったとしても、愛し合う2人の愛に嘘はないでしょう。

反対にこういった冒険的な生活だからこそ、男女の仲も燃え上がるのかもしれません。

愛の姿に決まった形はありません。この生き方が最高の幸せを与えてくれているからでしょう。

歌詞は1番のサビへと続いてゆきます。 

主人公がおびえる理由

あなたライオンたて髪ゆらし
ほえるライオンおなかをすかせ
あなたライオン闇におびえて
私はとまどうペリカン

出典: とまどうペリカン/作詞:井上陽水 作曲:井上陽水

ライオンのごとき男性は獲物をみつけて猛進します。

それを陰から見つめる主人公は心が傷んでいたたまれない気分のようです。

男性が行っていることは決して褒められた行為ではないからです。

しかし、生きていくために男性は仕事名義で力を振るいます。

相手を傷つけ力任せに抑え込み生きていく糧をそれによって得ます。

しかし、男性の心もそれで満足しているわけではありません、

心はいつもズタズタなのです。

こんな仕事を請け負っても、うれしいはずがないからです。

それを傍らで見守る主人公はおびえます。

早く、この男性に安らかな生き方を与えてやりたいと願って。

主人公たちのやり切れない思いは、2番の歌詞へと引き継がれます。

主人公の大いなる母性

私は大丈夫だから自由に暴れて

あなたひとりで走るなら
私が遠くはぐれたら
立ち止まらずに振りむいて
危険は前にもあるから
どこからでもあなたは見えるから
爪を休め眠るときも

出典: とまどうペリカン/作詞:井上陽水 作曲:井上陽水

2番の歌詞は安住の暮らしにたどり着けない、2人の絶望にも似た境地を垣間見せます。

男性はひとたび、獲物を見つけたら容赦なく突進していきます。

そして自分の役割を全うします。

それを遠くからつかず離れず主人公が見守ります。

主人公の女性は男性が安心して仕事が出来るよう、絶えず監視しています。

男性の仕事にはいつも危険が立ちはだかっています。

だから片時も油断ができないのです。

忍び寄る不安に立ち向かう

この歌詞中には男性の仕事が何なのかを断定するような描写はありません。

ただ、かなり危ない橋を渡っている事だけは確かです。

一般人が足を踏み入れない裏の世界が男性の居場所なのでしょう。

そんな世界の人間を愛してしまった主人公の女性。

出会った時からこんな不安の連続になることは予想できたはず。

しかし、彼女の大いなる母性は男性から感じ取られた心の奥底にあるさみしさを見逃しませんでした。

「ああ、この人には私がいなかったらどうなってしまうことか」。

主人公の大いなる母性が忍び寄ってくるいくつもの不安と向き合う決心をしたのです。

男性をいつまでも見守り続ける覚悟を決めたのです。