「朽ちてゆく光」というのは命のことを指しているのかもしれません。

夢の中、つまりあの世へと命が旅立つとき、ようやく自分の光があなたに届く。

その光景を眩しく思うのは、きっと初めて幸福を感じられたからでしょう。

主人公の幸せは、与えられることよりも与えることにあったのかもしれません。

最後の瞬間、あなたに光を届けることができた。

そうして主人公がすべてを失うのかと思うと、切なくて胸が締め付けられますね。

そばにいて、離さないで

ねぇ どうかそばにいて
泥だらけの手をとって
離さないで
どうかずっとそばにいて
離さないで
暗くなるのそばにいて

離さないで
言えないわ
ただずっとそばにいて
離さないで
ただずっと
愛してる

出典: I beg you/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記

最後の最後になって、主人公の願いが顕著にあらわれます。

「そばにいて」。「離さないで」。

これが、同情に縋ってまで言いたかった主人公の本当の思いなのでしょう。

しかしここまできても、主人公はその想いを「言えないわ」と歌います。

それはまだ、主人公が過去に縛られているからなのか。

それとも、疑う気持ちを捨てられないせいなのか。

きっと言えない理由は、たくさんあるのでしょう。

ただ唯一確かなのは、主人公があなたを愛しているということ。

たくさん遠回りをした結果、愛することの意味だけは知ることができたようですね。

「Heaven's Feel」の物語から読み解く

3部作全ての主題歌を担当したAimer

Aimer【I beg you】歌詞の意味を紐解く!響き渡る悲痛な懇願…秘められた本当の思いとは?の画像

人気ベルゲームを元にアニメ化された「Fate/stay night」。

複雑で重層的な構造を持つこの物語の中でも、特に暗部であり核心

その部分に迫るのが「Heaven's Feel」と銘打たれたエピソードです。

登場人物のひとり、間桐桜を中心として展開する「Heaven's Feel」。

長らく映像化は難しいとされてきましたが、満を持して映画3部作として制作・公開されました。

その3作全ての主題歌を手掛けたのがAimer

花の唄」「春はゆく」と共に、Heaven's Feelのヒロインである桜の心情にスポットを当てた作品となっています。

作品の世界観、そして桜の願い

それを存分に表現したAimerの3曲は、映画と共にファンの心に深く刻まれる作品となりました。

この節では歌詞の考察にあたり、多少物語の展開や設定に触れています。

未見の方はどうかご注意ください。

「I beg you」に込められた桜の想い

Aimer【I beg you】歌詞の意味を紐解く!響き渡る悲痛な懇願…秘められた本当の思いとは?の画像

「I beg you」というタイトル。

「beg」は「乞い願う」といった意味合いを持つ言葉です。

桜は物語の主人公、衛宮士郎に心を寄せています。

その想いは紛れもなく

本来だったら「あなたを愛している」「あなたが欲しい」といったタイトルであっても良いもの。

けれど桜の心情に沿ったこの歌は、「乞う」という表現を用います。

これは桜という少女が置かれた過酷な環境と、それによって歪んでしまった桜の心を表しているのです。

魔術が強い力を持つこの世界。

その中で桜は生まれ持った能力のため辛い環境に置かれ、虐待のような状況に置かれ続けてきました。

どこにも救いのない世界。

桜は自分が汚れていると思いながら生きていきます。

そんな真っ暗な毎日の中で初めて見つけた心惹かれる人。

それが桜にとっての士郎でした。

「I beg you」が主題歌となっている第2章「lost butterfly」。

この物語で桜は士郎と想いを交わし、愛する人と結ばれます。

けれど「自分が汚れている」と信じている桜にとって、それはまだ対等に与えあう愛には至っていないのです。

自分は汚れて劣った存在で、士郎は美しく尊い存在。

だから自分は「愛し合う」のではなく、「愛を与えてもらう」「愛を乞う」という立場にしかなれない…。

そんな歪んだ自己評価や価値観歌詞の世界にも反映されているのです。

不穏で薄暗い世界。

穏やかな世界が揺らぎ、崩れていくような楽曲の世界は、不安定で崩れつつある桜の内面を示しています。

自分は弱く汚れた存在だと卑下するような在り方。

それに対して全てを黒く塗りつぶし、食べてしまうような暴力性。

心がバラバラに引き裂かれているような印象は、そのまま桜が置かれている状況を示しているのです。

歌詞の言葉の選び方ひとつひとつにも「lost butterfly」の物語の展開を連想させるものが詰め込まれています。

是非、映画と合わせて深く味わってほしい一曲です。

物語の行き着く先は

Aimer【I beg you】歌詞の意味を紐解く!響き渡る悲痛な懇願…秘められた本当の思いとは?の画像

互いの中にある愛情を確かめながらも、運命に翻弄され闇の中へと囚われていく桜。

悲しみと絶望、そこから生まれてくる攻撃性や暴力性。

そして恋い慕う人を愛し、愛されたいと願う痛々しいほど純粋な願い…。

そんな想いに引き裂かれながら、物語は結末へと向かって加速していきます。

完結編である第三章のタイトルは「spring song」。

主題歌は同じくAimerによる「春はゆく」。

冬に繰り広げられたこの物語が春に向かいどのような結末を迎えるのか。

桜は救われることができるのでしょうか。

彼女が「愛を乞う」のではなく「愛し合う」という想いに辿り着くことを願ってやみません。

桜と士郎はどのような答えに辿り着くのか…。

2020年の夏、満を持して完結した「Heaven's Feel」3部作。

是非、物語の結末とAimerの描く主題歌の世界を見届けてください。

最後に

Aimer【I beg you】歌詞の意味を紐解く!響き渡る悲痛な懇願…秘められた本当の思いとは?の画像

『I beg you』の妖艶な世界には、痛々しいほどの悲しみが隠されていました。

願いの先に、必ず希望があるとは限らない。

悲しみや絶望というものは、大きくなるほど美しく姿を変えるものなのかもしれませんね。

切なくて美しい歌詞が心に染みわたる

Aimerの楽曲はどれも、切なくなるほどの美しさで溢れています。

歌詞に込められた深い想いに、きっと胸が苦しくなるでしょう。

以下の記事では、そんなAimerの心に染みわたる曲を紹介しています。

彼女にしか生み出せない、独創的で耽美な世界を堪能しませんか?

冬の夜空に浮かぶ星座に感情移入した歌詞が切ない1曲。Aimerの両A面でリリースされた3rdシングル「雪の降る街/冬のダイヤモンド」より、「冬のダイヤモンド」を紹介します。