外では平身低頭な姿勢でも、家ではちゃぶ台をひっくり返す亭主関白なんていうのも昭和によくある男の姿。
しかし歌詞に登場する「男」は、家にいる間も威張り散らしたり乱暴なことは一切しません。
大変に良き夫であり良き父なのです。
感情を露わにすることなく寡黙で、仕事で苦しく辛いことがあっても家族に話しません。
もちろん「男」だって愚痴りたい時はありますが、家族に悩んでいる姿を見せるのは恥ずかしいと思っています。
だから決して家には会社の話題は持ち込みません。
そのかわりに、酒場でお酒の力を借りてほっと一息ついて、辛い一時をやり過ごすのです。
自分が一家を支えなければいけないのだから格好悪い所は見せられない、という挟持が感じられます。
身の程をわきまえ人に対して誠実に
目立たぬように はしゃがぬように
似合わぬことは 無理をせず
人の心を見つめ続ける
時代おくれの男になりたい
出典: 時代おくれ/作詞:阿久悠 作曲:森田公一
「男」は他人の言動にはいたっておおらかですが、自分自身に対しては厳しく律しています。
たとえ出世しても、周囲に対しては謙虚な姿勢を崩さず、喜びを表に出しません。
また、ディスコなんて洒落た所は自分の居場所じゃない、とも思っています。
お金の使い方は堅実で、賭け事は一切せず、キャバクラで遊ぶこともしない真面目な人生。
傍から見れば「せっかく生まれたのに可哀想」「ノリの悪い人間だ」と思うかもしれません。
しかし「男」は自分の生き方に誇りを持っています。
目の前の誘惑や欲望に流されることなく実直を旨としているからです。
目指すは高倉健のような昭和の男
人間らしさはちゃんとある
不器用だけれど しらけずに
純粋だけれど 野暮じゃなく
上手なお酒を飲みながら
一年一度 酔っぱらう
出典: 時代おくれ/作詞:阿久悠 作曲:森田公一
「男」は真面目な人間ではありますが、自分自身の感情を殺したりはしません。
お酒の場でみんなが盛り上がれば声を上げて笑うし、時折面白いことを言ったりもします。
家庭を裏切ることはしませんが、立ち振る舞いはスマートで、さっぱりした性格。
女性に優しく親切なため、モテないわけではないようです。
お酒も普段は飲み過ぎないよう自制していますが、「一年に一度は大目に見てくれ」と酔いつぶれます。
いつもは介抱する側の「男」も、この時ばかりは介抱される側に。
そんな人間らしさが垣間見える所も「男」の魅力となっています。
友を大事に自分の都合は後回し
昔の友には やさしくて
変わらぬ友と信じ込み
あれこれ仕事もあるくせに
自分のことは後にする
出典: 時代おくれ/作詞:阿久悠 作曲:森田公一
大人になると会う機会も減り、疎遠になってしまいがちな古くからの友人。
しばらくぶりに会ってみても、そこはシビアな大人の世界。子供の頃のように無邪気にやり取りできません。
「先に結婚した」「俺の方が出世した」と近況を競い合うようになったり、信頼を利用されて裏切られたり。
しかし「男」は相手がどう変わろうと自分のスタンスを変えません。
「男同士の友情は永遠だ」と100%信じているのです。
「男」にとって友人の幸せは自分の幸せと同じ、もしくはそれ以上の価値を持っています。
ですから一度友人が助けを必要とすれば、全力でそれに応えようとします。
仕事なんて後回しで、下手したら家庭も疎かになるくらい、友人の幸せが第一です。
目先の利益にとらわれず一途である
ねたまぬように あせらぬように
飾った世界に流されず
好きな誰かを思いつづける
時代おくれの男になりたい
出典: 時代おくれ/作詞:阿久悠 作曲:森田公一
社会で成功し、活躍する人が取り上げられるたびに抱くジェラシー。
「追いつけ追い越せ」と自分自身が頑張る原動力となってくれれば問題なし。
ですが、感情に振り回されれば、根拠もなく人を差別したり非難をする要因になりかねません。
また、「世間から取り残されてしまうのではないか」という焦りについても同様の問題が起こりえます。
内面よりも外面的な派手さやわかりやすさ、若さがもてはやされる世の中。
手元でいくらでも情報が得られる現代は、とかく時流に乗ることが大事なように思えます。
「ムダな回り道をせず効率よくスマートに人生を生きたい」という人も多いのではないでしょうか。
一人の人を好きで居続けることは「時間がもったいない」「重いしダサい」と避けられがちです。
けれど、お付き合いが無理でも、表に出さずそっと恋い慕うことって「なんだか粋だなあ」と筆者は思います。
時代につれ社会も価値観も変わりますが、表れ方は変わっても人を思いやる気持ちは大事にしていきたいですね。