ご当地ソング「千曲川」
ある大物作詞家による思惑や、様々なヒストリーが陰に潜んでいる楽曲です。
今回は数々の裏話が大変興味深い、「千曲川」をご紹介いたします。
皆さんご存知、五木ひろしといえば日本を代表する演歌歌手です。
「千曲川」は1975年5月にリリースされました。
1971年に再デビューシングルとしてリリースされた、大ヒット曲「よこはま・たそだれ」。
「千曲川」はそれにつづくご当地ソングで、故郷を思い出させると愛されている楽曲です。
大物作詞家と大物作曲家による楽曲
作曲は数々の名曲を生み出した、ヒットメーカーの作曲家・猪俣公章。
作詞は作詞家であり、ときには執筆家でもあった山口洋子です。
先述の思惑や裏話には、山口洋子の五木ひろしに対する並々ならぬ熱い想いが詰まった楽曲といえます。
かねがね同氏は、五木ひろしにある願いを込めていたといいます。
紅白歌合戦の初めてとなるトリと、日本レコード大賞を奪取させるために画策していたのです。
「千曲川」は本来、五木ひろしとは違う女性歌手が歌うことに決まっていたにも関わらずです。
3拍子の美しいメロディーに惚れこみ、自ら関係各所へ交渉を重ね猪俣公章より譲り受けたといわれています。
「千曲川」は山口洋子の目論み通り、見事に大ヒットするのです。
しかも、かねてより切に願っていた紅白歌合戦の初トリも果たすことになります。
そんな隠れたエピソードを踏まえてお聴きいただくと、「千曲川」のもつ魅力を感じていただけるでしょう。
哀愁漂う「千曲川」の歌詞を余すところなく徹底解釈します
千曲川とは甲武信ヶ岳が源流で、長野県の県境に位置しています。
新潟県に入ると、「信濃川」とその名をかえる日本一長い川なのです。
「千曲川」の詞は、明治時代の文豪・島崎藤村の「千曲川旅情の歌」を参考にしたといわれています。
壮大なストーリーが展開されることは間違いない楽曲です。
ちょっと旅に出かけたくなるでしょう。
主人公の恋慕な気持ちの1番の歌詞
時の流れとは儚いもの
水の流れに 花びらを
そっと浮かべて 泣いたひと
出典: 千曲川/作詞:山口洋子 作曲:猪俣公章
主人公は「千曲川」の隆々たる流れを、ただ呆然と眺めている情景が思い浮かびます。
千曲川の水は少し濁りがあるといわれています。
遠くどこまでも続いてゆく水の流れは、人生と同じようだと感傷に浸っているようです。
記憶を花びらになぞらえ、若かりし遠い昔の出来事を懐かしみそして悔やんでいるのでしょう。
自責の念を唱えるように、濁る水の流れに過去の過ちを懺悔しているようにも感じとれます。
女性の残像...
自分のために泣いてくれた女性と、別れてしまったシーンを振り返っているのかもしれません。
千曲川を前にすると、ある姿を思い出すのです。
目に焼きついている見えないはずの悲しむ女性の後ろ姿が、ぼんやりと現れるのでしょう。
その時の女性と同じ行動を主人公もとろうとしています。
返ってはこない答えを花びらに託し、あなたは今どうしているのだろう...。
やさしく手を差し伸べてくれた女性の記憶を辿っているのです。
男の未練がましさを、イントロのたった2行の歌詞で表しています。
楽曲の奥深さがひしひしと伝わってくようです。
後悔ばかりが募る故郷
忘れな草に かえらぬ初恋を
想い出させる 信濃の旅路よ
出典: 千曲川/作詞:山口洋子 作曲:猪俣公章