歌い継がれる「襟裳岬」
フォーク界と演歌界の融和
フォーク界の雄として既に活躍中だった吉田拓郎が以前から「森進一さんのような人に曲を書いてみたい」と述べていて、それを森のレコード会社の者が覚えていたことから生まれたのが「襟裳岬」です。
当時は演歌歌手がほかのジャンルの曲を歌うということは滅多なことではありませんでした。また、吉田が書く曲はこれまでのどのジャンルの曲とも異なる特徴を持ったものです。
フォークソングの流れを汲みつつ、字余り・字足らずの独特の歌詞のつけ方、音の運び方の曲は「拓郎節」とでも言うべきものでした。このコラボに森の所属事務所やレコード会社の幹部は難色を示します。
「フォークソングのイメージは森に合わない」、そのような意見に却下されそうになった「吉田拓郎×森進一」ですが、事務所やレコード会社の反対を押し切って、森は「襟裳岬」を歌ったのでした。
結果、「襟裳岬」はセールス100万枚を越える大ヒット!
この記録によって、森はこの年の日本レコード大賞を受賞。既にこの頃「テレビに出ない歌手」だった吉田が曲の制作者として森とともにステージに立ちました。
同じ年の紅白歌合戦では、森は7回目の出場にしてはじめて大トリを務めました。大出世と言えるでしょう。
出演順が最後の人を「トリ」と言いますが、紅白歌合戦は紅組と白組が交互に歌うので、紅組のトリ、白組のトリがいます。そのうち、番組の最後に歌う方を「大トリ」と言います。
大トリを務めることができるのは限られた歌手のみです。森は「襟裳岬」によって、その一人となったのでした。
フォーク界と演歌界が見事に融和し、見事なまでの成功を収めたのです。
この曲以降、フォーク系のシンガーソングライターがポップス歌手や演歌歌手に曲を提供することが多くなりました。
たとえば吉田は天地真理やアグネス・チャン、石野真子など多数の歌手に提供していますし、研ナオコや桜田淳子などは中島みゆきの曲を多く歌っています。
吉田拓郎の驚愕
吉田は盟友・岡本おさみの連絡を取り合いながら歌詞を完成させ、曲をつくり、曲が完成したらデモテープをつくりました。
デモテープとは、制作途上の音源を収録した記録媒体のことです。1990年頃まではカセットテープが使用されていたので「テープ」と言うのですが、現在ならCDなどを使います。
自身がつくった曲を、「こんな風に演奏して」、「こんな風に歌う」ということを伝えるためのデモテープなのですが、仕上がった「襟裳岬」は吉田のデモとはまったく違ったものでした。
吉田は、自身がいつも歌うときのようにあくまで「軽く」ギターをかき鳴らし、力むことなく歌うことを想定していました。
しかし森のレコードを聴くと、イントロではいきなりトランペットが高らかに鳴り、「いかにも演歌」といった力強いアレンジが施されていました。
はじめてこれを聴いたとき、吉田は驚いて「倒れた」とのちになって語っています。
吉田自身が歌った「襟裳岬」もあります。聴き比べてみてください。

吉田拓郎・襟裳岬・LIVE73
子も歌う「襟裳岬」
森には3人の息子がいます。そのうち2人はいまやアーティストです。長男・貴寛はアイドルを経て、現在「taka」名義でONE OK ROCKのボーカルを務めています。
いまでは歌唱力の評価も高い世界的なボーカリストですが、実はtakaはアイドル時代にテレビ番組で「襟裳岬」を歌ったことがあります。
父である森はtakaが幼い頃から、一緒にいるときは自身の曲を流して常に聴かせていたそうで、「ちっちゃいときから聴いてたんで覚えてます」とコメントしています。
下に掲載している動画でその様子をご覧ください。この動画には現在はMY FIRST STORYのボーカル「Hiro」として活動しているtakaの弟・寛樹も登場します。
動画では「青い山脈」、「襟裳岬」、「世界に一つだけの花」の3曲が歌われ、その後に歌った3人のトークも見ることができます。

味のある歌詞
作詞は岡本おさみ
岡本おさみはもともと放送作家でしたが、のちに作詞家として吉田拓郎とのタッグで多くの曲を残しています。
吉田の曲では「旅の宿」、「落陽」などのヒット曲があり、ほかのアーティストでは岸田智史「きみの朝」、時任三郎「川の流れを抱いて眠りたい」、南こうせつ「美映子」などが知られています。
めずらしいところでは、ガチャピンの幻の名曲(?)「たべちゃうぞ」の補作詞も手掛けています。この曲の作曲も吉田です。ほんとうにさまざまな、多種多様な作品を生み出した2人です。
たべちゃうぞ - ガチャピン - 歌詞&動画視聴 : 歌ネット動画プラス
歌ネット動画プラスではYoutubeの音楽PVやMusicVideo ライブ映像を歌詞を見ながら視聴できます。
「襟裳岬」の歌詞を読む
北の街ではもう 悲しみを暖炉で
燃やしはじめてるらしい
理由のわからないことで 悩んでいるうち
老いぼれてしまうから
黙りとおした歳月を
ひろい集めて暖めあおう
襟裳の春は何もない春です
出典: 襟裳岬/作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎