非常に印象的なことで有名な歌い出しです。「北の街」とはもちろん北海道の、殊に襟裳の街を指していることは言うまでもありません。

そこでは「悲しみを」暖炉で燃やしています。暖炉に火があるということは、冬の真っ只中です。そこで悲しみという薪を燃やしているのです。

ここで言う「冬」は2つの意味を持ちます。四季のひとつである冬と、人の心にとって寒い、つらい時期である冬です。

燃やさねばならない悲しみがあるということは、北の街にいる人はつらい時期を過ごしていたのですね。

「黙りとおした歳月を/ひろい集めて暖めあおう」の「黙りとおした歳月」が、即ち歌い出しの「悲しみ」なのでしょう。これを拾い集めて暖炉にくべて燃やしましょうという呼び掛けです。

北の街に住む、あるいは悲しいことがあって北の街にやってきた人たちが、それぞれの悲しみを持ち寄って燃やし、つらさを慰め合おうと言うのです。

それは何故か?

それを述べているのが「理由のわからないことで 悩んでいるうち/老いぼれてしまうから」の部分です。

「理由のわからないこと」で悩むのは人にとって常のことです。理由が明らかなことであれば悩む必要などないのです。分からないから悩むのです。「悩む」とは出口のない思考のことです。

そんなことに気を取られているうちに、何もできないまま年を取ってしまう。それでは元も子もないから、悩んで沈黙していた年月を暖炉で燃やしてしまいましょう、ということです。

それは悲しみに凍える心を暖めると同時に、悲しみとはそれきり訣別してしまい、新たに人生を歩みはじめましょう、ということでもあります。

だから「何もない」春なのです。春は雪解けを待つ季節、悲しみから解放される季節です。

過去の悲しみをすべて暖炉で燃やし、まっさらの状態になった人と、冬中降り続けた雪に覆われた風景とを重ね合わせて「何もない」と表現しているのです。

決して「襟裳の街は何ひとつない田舎だ」と言っている訳ではありません。

君は二杯めだよね コーヒーカップに
角砂糖をひとつだったね
捨てて来てしまった わずらわしさだけを
くるくるかきまわして
通りすぎた 夏の匂い
想い出して 懐かしいね
襟裳の春は何もない春です

出典: 襟裳岬/作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎

広い視点の1番から、2番は焦点が1人の人に絞られます。「君」です。コーヒーを飲みながら話す「君」はやはり、わずらわしさを捨ててきた人です。「悲しみ」がある人なのですね。

「くるくるかきまわして」いるのは、コーヒーに入れた角砂糖と一緒に、コーヒーカップの中に思い出として目に映っている「捨てて来てしまったわずらわしさ」をスプーンで混ぜているのでしょう。

「通りすぎた夏の匂い」は「捨てて来てしまったわずらわしさ」と同様に思い出のひとつ、話し相手――つまり歌詞の語り手・主人公との共通の記憶です。

もしかしたら、主人公と「君」は過去にひとつの悲しみを共有したのかもしれません。だから「懐かしいね」と語り合うのかもしれません。

日々の暮らしはいやでも やってくるけど
静かに笑ってしまおう
いじけることだけが 生きることだと
飼い慣らしすぎたので
身構えながら 話すなんて
ああ おくびょうなんだよね
襟裳の春は何もない春です
寒い友だちが 訪ねてきたよ
遠慮はいらないから 暖まってゆきなよ

出典: 襟裳岬/作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎

日常から逃れられないのは誰しものことです。つらいことも悲しいことも日常です。だけどただ悩む、悲しむのではなく、「静かに笑ってしまおう」と言っています。

つらいこと、悲しいことに怯えながら小さく身を縮めることが生きていく術だと自分に言い聞かせて生きてきてしまった主人公は、自らを臆病だと評します。

これは反省なのでしょうか。はたまた自嘲なのでしょうか。また、この3番の歌詞は2番の続きとして「君」と語り合っているのか、主人公の一人語りなのかも、判断に迷うところです。

しかし「おくびょうなんだね」ではなく「おくびょうなんだよね」と言っていることから、自分自身のことを言う一人語りなのではないかと考えられます。

悲しみを暖炉で燃やしながら旧友と過去を語り、自らの生き方を顧みた主人公が迎える襟裳の春は何もない春です。悲しみや煩わしさを暖炉で燃やして身ひとつになった主人公もまた、何もない人です。

「寒い友だち」とは寒い思いをしている人、悲しみを負っている人を言うのでしょう。必ずしも文字通りの友人ではなく、「自分と同じように悲しみを抱えてきた人」ほどの意味かもしれません。

「遠慮はいらないから 暖まってゆきなよ」とやさしくできるのは、寒い思いをしたからです。寒い思いをしたからこそ寒い人のつらさを察してこのように言えるのですね。

寒さに苦しんだ人は寒さのもととなった悲しみを燃やしてしまうことで暖かくなることもできるし、寒い人同士で互いの悲しみを燃やして暖め合うこともできます。

そして悲しみを燃やしてしまった後は「何もない春」がやってきて、まっさらな地面に足を踏み出すことができるのでしょう。「襟裳岬」は厳寒でありながら、間近に希望が見える土地なのでした。

「襟裳岬」のコード譜

岡本おさみが書いた歌詞に、吉田拓郎はおそらくギターを爪弾きながら曲をつけたのでしょう。吉田が弾いた旋律を、ギターをお持ちの人は奏でてみましょう。

まず1番のAメロから。

 G  Em  G   Em   G
北の街ではもう 悲しみを暖炉で
  Em   Bm   Em
燃やしはじめてるらしい
  G     Em  G    Em  G
理由のわからないことで 悩んでいるうち
  Em   Bm  Em
老いぼれてしまうから

出典: 襟裳岬/作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎

G→Em→G→Em→G→Em→Bm→Em、これを2回繰り返すAメロです。

ストロークは16ビートで、先の項でもご紹介しましたように、吉田は「軽い感じで弾く」ことを想定してつくったのだとのちにコメントしています。

しかし、力むような演歌の力強さをギターの弾き語りで表現してみても、それはそれでおもしろい効果が出るかもしれません。

 G   Bm Em  C
黙りとおした 歳月を
  G   Em Am D7  G
ひろい集めて 暖 めあおう
 C   G Em Am D7  C G / C G /
襟裳の春は  何もない春です

出典: 襟裳岬/作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎

上記がサビ前~サビの部分のコードです。登場するコードはAメロと大きく変わりません。C、Am、D7がAメロよりも増えたコードです。

2番も1番と同様に弾いてください。2番に続く大サビ「寒い友だちが……」の部分も、1番・2番のサビ前~サビと同じフレーズの繰り返しです。

参考にさせて頂いたのは下記サイトです。こちらでコード譜の全体像をお確かめください。

まとめ

『襟裳岬』で森進一は紅白の〇〇に!歌詞の意味を解釈!吉田拓郎作曲のコードを解説!息子のTakaも?の画像

カラオケでも人気を保ち続ける「襟裳岬」。長い年月を歌い継がれ、もしかしたら親子三代で聴いている人もおられるかもしれませんね。

鼻唄にもしやすい親しみのある曲調ですから、これからもさらに後世に伝わっていくことでしょう。

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