単純かつ難解な「愛こそはすべて」
30分で生まれた超名曲
1967年6月25日の人類初になる衛星中継を用いた24カ国同時中継番組「アワ・ワールド」。
この番組の中でビートルズが初披露したのが「愛こそはすべて」。
クレジットこそいつもと同じく「Lennon=McCartney」ですがジョン・レノンが書いた曲です。
ジョンは世界を変えようとするこの曲を「30分で創った」といいますからやはり「超」がつく天才。
ただし「歌こなすのには1週間かかったよ」ともいっています。
実際、この日の同時中継での歌唱には満足できなかったので後からボーカルを録り直しました。
いずれにしてもこの曲では人類にとって愛こそが一番普遍的な力を持つのだと歌いきります。
時代はベトナム戦争の真最中でありジョンがいいたかったのは戦争よりも愛することというテーマ。
このテーマこそ分かりやすいのですが二重否定やダブル・ミーニングの多用で難解さもあります。
ポール・マッカトニーも「複雑な歌詞で僕にも分からない」という趣旨の発言をしているほど。
それでもジョンは「Easy(簡単だよ)」と歌うのです。
果たして何が簡単であるのか?
ダブル・ミーニングのため難しい歌詞
ポールにも分からない歌詞
「愛こそはすべて」の歌詞が難解であるといわれると戸惑う方もいらっしゃるはずです。
何せタイトルを連呼するサビの歌詞は明白ですから。
All you need is love
出典: 愛こそはすべて/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
このフレーズは邦題の「愛こそはすべて」に反映されているように一義的です。
「君が必要とするものは愛だけだよ」
または受験英語的にYouを訳出しないか一般的な「ひと(人間)」とする訳もありえます。
「人にとって必要なものは愛だけだよ」
いずれにしてもサビの部分の解釈は明白です。
さて、では何がこの曲の解釈を難解にしているのか? まずはジョンの歌い出しを見てください。
There's nothing you can do that can't be done.
出典: 愛こそはすべて/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
中々、歯ごたえのある英文だと分かっていただけると思います。
逐語訳すると「なされなかったことで君ができることは何もない」という訳になりそうです。
実際にこのニュアンスでの訳が日本語訳歌詞カードに記載されてきました。
しかし一方でこの英文の語順が変だぞと疑う人が多くいるのです。
ジョン・レノンは第一級の詩人ですから詩が際立つためには常識的な文法には甘んじません。
そのことを見抜いた人はこのラインを「君がなしたことで、できなかったことは何もないよ」と訳します。
逐語訳とはまるで逆の意味になるのです。
この立場に立つ人は日本語訳歌詞カードの訳を「世紀の誤訳」とまで言い放ちます。
ジョン・レノンの性格的に全て否定する逐語訳の解釈はおかしいとは何となく感じるものです。
一体どちらの解釈が正しいのでしょうか?
実はこのラインはネイティブの人にとっても「どちらの解釈もできる」というのが実際のよう。
ビートルズの歌詞を研究する専門家は「この歌詞はダブル・ミーニングである」と評価しています。
そうなると訳出はどちらの解釈も並列で置くのが正しいようです。
そのためこの記事の和訳は独特なものになりますが予め以上の経緯をご理解いただけたらと存じます。
辞書と首引きになっても分からない事情ですが「愛こそはすべて 誤訳」で検索して調べてみてください。
それでは実際の歌詞を和訳しながら見てゆきましょう。
祝祭感あふれるイントロ
ゲストたちも豪華
Love, love, love.
Love, love, love.
Love, love, love.
出典: 愛こそはすべて/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
イントロの分厚いブラス・サウンドから祝祭感や幸福感が沸き立ちます。
この部分は特に和訳しません。
原詩のハーモニーを聴いていただけたら充分です。
この日はビートルズのメンバーやオーケストラの他にも多彩なゲストがフロアを埋めていました。
ローリング・ストーンズからミック・ジャガー、キース・リチャーズ。
他にエリック・クラプトン、マリアンヌ・フェイスフル、キース・ムーン、グラハム・ナッシュ。
さらにはメンバーの妻などです。
超豪華なメンバーで彼らだけのフェスティバルが観たくなります。
ゲスト全員がコーラスで協力しているのですからどれほど恵まれた時代か分かるもの。
生中継でミスが有ると問題ですからバック・トラックだけは事前に録音しています。
しかしジョンは生歌ですし、ポールもジョージもリンゴも生で担当楽器を演奏しました。
さらにオーケストラも生演奏です。
世界同時生中継番組ですから「初物尽くし」なのでビートルズ側も最善の体制で望みました。
バック・トラック録音の使用を頑なに主張したのはジョージ・マーティンです。
リンクを貼りましたのでぜひご覧ください。
メンバーの服装や楽器への塗装などにサイケデリックな時代の香りが充満しています。