一時は解散寸前とも言われるほどの関係だったクイーン。
しかしライブ・エイドを経て、今後もバンドを継続しようという意気が高まります。
それを宣言したのがこの「One vision」つまり「一つのビジョン」でした。
「ビジョン」には「視野」や「展望」といった意味があります。
俺たちは展望を一つにする必要がある、一つの目標に向かって行こう。
バラバラになりそうだった時期を越えて、そう高らかに宣言しているのです。
「一つ」になるために
それを踏まえて「A Kind of Magic」の歌詞を見てみましょう。
先ほどたくさん挙げられていた「魔法のようなもの」。
それらは「One Vision」で歌われている「ビジョン」と重なります。
そう考えるとなぜ「一つ」であることが重要なのかは明らかですね。
メンバーそれぞれが別の方向を見るのではなく、目標を一つに定める。
抑えきれない喜び
永遠から目覚めて
The waiting seems eternity
The day will dawn of sanity
Is this a kind of magic
It's a kind of magic
出典: A Kind of Magic/作詞:Roger Taylor 作曲:Roger Taylor
「待ってる時間は永遠に思える
新しい自分が目覚める日を
これは魔法みたいなもんかな
そう、魔法のようなもんだ」
「sanity」は「正気」や「(思想などが)健全」という意味。
つまりこのフレーズを直訳すると「その日は正気の夜明けとなる」となります。
それをバンドのエピソードになぞらえてみましょう。
「正気に返る」ことは、原点に立ち戻りバンドとしてやっていくことのように聴こえます。
その思いが、四人それぞれに新たに芽生えたということでしょう。
永遠のように思えた時間と、望みが現実となったことを自問自答して確かめる姿。
再びバンドとして歩み始められたことへの大きな喜びが、さりげない表現ながら、胸を打ちます。
炎を胸に
This flame that burns inside of me
I'm here in secret harmonies
It's a kind of magic
The bell that rings inside your mind
Is challenging the doors of time
出典: A Kind of Magic/作詞:Roger Taylor 作曲:Roger Taylor
「俺の中で炎が燃えたぎる
秘密のハーモニーに囲まれて、ここにいる
それは魔法のようなもの
君の心の中で鳴り響く
鐘は時の扉に挑んでるんだ」
音楽でもなくあるひとつの曲でもなく「ハーモニー」の中で燃える、彼の心の炎。
それはきっと、自分たちのバンドでしか生み出せないグルーヴの中にいられるからこそ燃え盛るのでしょう。
そしてそれは恐らく、彼一人にはとどまらず、他のメンバーもそうであったのでしょう。
鐘の音は大抵、何かの合図になるもの。
それが心の中で鳴ったことで、バンドの時がまた動き出し、新たな扉を開く。
そんな情景が思い浮かびます。
「開ける」ではなく「挑む」という言葉が、衝動に突き動かされはやる心を示唆するようです。
それもこれも、彼らを団結させる「魔法のようなもの」が見つかったからでしょう。
映像にも描かれる魔法
それを踏まえてMVを見てみると、映像でも楽曲のテーマが示唆されているように思えます。
フレディ・マーキュリーが持ち込んだ「魔法」によって、バラバラに過ごしていた三人が合奏する。
そしてフレディ自身もその音の中で歌い、四人でバンドになる。
曲が終わると魔法は解けてしまいます。
しかし最後のフレディの笑い声のように、魔法の余韻は聴衆の心に残るのです。
「魔法のようなもの」の正体
待ち望んでいた時とは
This rage that lasts a thousand years
Will soon be done
出典: A Kind of Magic/作詞:Roger Taylor 作曲:Roger Taylor
「ずっとずっと昔から待ち望んできた
もうすぐそれが叶うんだ」
「rage」は「怒り」の他に「渇望」という意味もあります。
つまり最初の行は直訳すると「千年続く渇望」。
"待っている時間が永遠にも思えた"という先ほどの歌詞と重なります。
全員でひとつの目標に向かえることを、ずっと待ち望んでいた。
目標の例は色々と挙げられていますが、単純に演奏の中で"グルーヴを出す"こともその一つでしょう。