ヒッチコックが手掛けるサスペンスは、よく登場人物の動機などで構成されています。
その様な表現技法のことを「マクガフィン」というのですが、今回n-bunaが手掛けた世界観にはそんなマクガフィンを望んでいる生徒の姿を描いているのではないでしょうか。
人生を生きる上で、自分が生きる意味を見出したい。
そんな思いがあったからこそ、「ヒッチコックみたいなサスペンス~」という台詞が書かれたのではないでしょうか。
MVから見える「ヒッチコック」の世界観
この曲に登場するのは、何度も述べている様に生徒と先生。
ただ、先生は人間ではありません。この描写は、子供から見た大人の姿ではないでしょうか。子供から大人を見ると、恐怖を抱くこともあるでしょう。
そんな様子を描いているのではないでしょうか。
そして、先生には手がありません。しかし、生徒は必死に手を伸ばしています。
生徒の現状に気付かない先生、もしくは生徒の現状を無視している先生を表しているのかもしれません。似たようなことが実際の学校でもあるでしょう。
生徒の胸にぽっかりと開いている穴が、大人から無視される子供が抱く空虚感を映し出していますね。
部屋の中に出てくる穴の意味は?
教室らしきところで子供が先生らしい生き物にずっと問いかけているシーン。
その時、2人の間には大きな穴がぽっかりと空いています。
あの穴は何を表すために描かれているのでしょうか。
様々な考えがあるかと思いますが、1つは先生と子供の心の距離と考えられます。
人生相談をもちかけるほどですから、先生側の方は様々な経験を積んでいるのでしょう。
しかしどの言葉も先生には届いていない様子。
届いていない原因の1つとしてお互いの心の距離。
2人の間には大きな穴がぽっかりと空いてしまっている為、うまく意志の疎通が取れていないように感じられます。
こども側はいつも必死なのに、先生側の反応は薄いことが多い。
こどもの質問が答えづらいものばかりという理由もあげられます。
しかし1番は子供の辛さや苦しさに先生側がちゃんと共感できていないのではないでしょうか。
あの年頃はいろいろ考えるから、泣いたり怒ったりしやすい時期だから仕方が無い。
そんなどこかこどもの問いかけを真剣に聞いていないような感じに捉えることができます。
大人とこどもは別の生き物だ。
そんな言葉もあるように、お互い理解できない部分を「穴」として表現しているのかもしれません。
「先生」がずっとついてきている意味
どこかこどもの話をちゃんと受け取れていない様子の先生。
こどもとしては、その経験を活かして自分の悩みを解消してほしいわけです。
そのために必死で身振り手振りを使って先生に伝えているしぐさが描かれています。
時には必死な顔になって先生に訴えかけているシーンも…。
なんて冷たい先生なんだ、これだから大人は嫌なんだ。
そんな意見が出てくるかもしれません。
しかし他のシーンを見て見ると、こどもの傍にいたり、寄り添ったりしている場面もいくつかあります。
上っ面だけ大人になった人物が、こどもに寄り添ってあげることなんてできるでしょうか。
自分のこどもでも無い限り、いくら「先生」という立場であって難しいことだと思います。
おそらく、この「先生」と呼ばれているキャラクターは優しい人物なのでしょう。
大人とこどもという立場なので、認識の違いはあれど、こどもの訴えを全て聞き流しているようではないようです。
答えづらい質問に真剣に答えようとするあまり、無言になってしまう。
そんな不器用な人物像がイメージできます。
こどもの必死な訴えに上手く答えてあげられない代わりに、泣いている時は寄り添ってあげたい。
先生は先生なりに自分のできることを精一杯しているようです。
穴に一緒に落ちた理由は?
曲も後半になるとこどもが穴に飛びこみ穴の中から先生へ手を差し伸ばすシーンがあります。
この時こども側からみると穴の上にいる先生の周りにキラキラがキラキラと光っている様子が…。
こどもからすれば顔色1つ変えない先生が社会と上手く付き合っているように見えるのでしょう。
自分だけが心に大きな穴が空いていて苦しんでいる。
理想と現実のギャップに悩まされている自分を先生は上から見ているだけなんだと、思っているのかもしれません。
そしてこどもは先生にこう問いかけるのです。
先生の夢は何だったんですか。
大人になると忘れちゃうものなんですか。
出典: ヒッチコック/作詞:n-buna 作曲:n-buna
この歌詞のあとの先生の表情に少し変化が出ています。
顔の部分が暗く、何か心を動かされたような表情。
こども側から見れば先生の立場はキラキラと輝いているように見えていました。
しかし先生の方へ視点を戻すと、そんなに輝いているわけでもありません。
そしてこの歌詞のあとに映った穴の中のシーンには先生とこどもの2人が映っています。
穴の中は暗くも水浸しで、雨も降っています。
少なくとも居心地が良い場所ではなさそうです。
それでも先生は穴の中にとびこみました。
おそらく先生もこどもと同じような心の穴に苦しんでいたのでしょう。
でも、穴の苦しみばかりに囚われていたら社会で生きていけなくなるから。
自分の心の穴を見て見ぬふりをしていたのかもしれません。
先生から見た「ヒッチコック」の世界観
「ヒッチコック」の歌詞はこども目線でMVもこどもの動きや心理描写が多い傾向です。
そのためついついこども目線で見てしまいがちです。
また先生のキャラクターイラストもこども目線で描かれています。
先生のデザインが人外のような形になっているのも共感しづらいポイントでしょう。
こども側からみると腕がないのはこどもを無視している表現と捉えることができると紹介しました。
しかし先生側からみると、何か助言をしてやりたいけどできない。
そもそもこどもが質問してきた疑問を今まで放置していたから答えることができかったという考え方もできます。
先生自身が心に穴があることは当たり前で疑問をもたなくなってしまったのかもしれません。
穴が空いた頃は違和感と苦しさでいっぱいいっぱいだったのに。
そんな辛くて、苦しいけれど、大事なことをこどもと関わることで少しずつ向かい合っている。
その向かい合う大きな一歩がこどもと同じ大きな穴に飛びこむことだったのかもしれません。
そんな描写が想像できます。