VOCALOIDではなく生の声で

diorama

アーティストとしての地位を固めてきている米津玄師ですが、米津玄師としてデビューする前はハチという名前でニコニコ動画にボーカロイドを利用した楽曲を投稿して活躍していました。

ハチとして発表された「マトリョシカ」や「結んで開いて羅刹と骸」などは特に有名なので、ボーカロイド曲を聴いたことがあれば知っている人も多いのではないでしょうか。

vivi」はそんな彼が2012年に米津玄師名義で最初に作成したアルバム「diorama」に収録された一曲です。

発売前に着うたフルが先行配信され、配信サイトのデイリーチャートで1位にもなった「vivi」。

その歌詞の意味を紐解いてみましょう。

悲しみの溢れる歌詞

大切な存在との別れ

悲しくて飲み込んだ言葉
ずっと後についてきた
苛立って投げ出した言葉
きっともう帰ることはない

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

音にすることなく自分の中に閉じ込めた言葉はその後ずっと引きずってしまいます。

言わなかったことへの後悔なのでしょうか、それとも消化不良となって滞ってしまっているのでしょうか。

とはいえ感情にまかせて言ってしまった言葉は戻ってきません。

「今のは違う」「ごめん」と取り消そうとしても言ってしまった事実は消えないまま自分の中に、もしくは相手の中に残ってしまいます。

悲しかったり苛立ったりという負の感情に左右されて言えずにいることも言ってしまうことも、あまり気持ちのいいとは言えない状況をつれてきてしまいますね。

言葉にすると嘘くさくなって
形にするとあやふやになって
丁度のものは1つもなくて
不甲斐ないや

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

思っていたことを言葉にするとなんだか薄っぺらく感じたり、思い描いていたものを形にすると「こんなものだっけ?」と違和感を感じてしまったりということはあると思います。

自身の表現力が足りないのでしょうか、理想を現実のものにする行為の限界なのでしょうか。

納得できるものができなくて自身を失ってしまうこともあるでしょう。

愛してるよ、ビビ
明日になればバイバイしなくちゃ
いけない僕だ
灰になりそうな
まどろむ街を
あなたと共に置いていくのさ

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

「僕」が愛する「ビビ」へ別れを告げます。

愛しているのに別れなければならない理由とは何でしょうか。

「灰になりそうな まどろむ街」というフレーズからは生命力が感じられませんが関係があるのでしょうか。

置き去りにしてしまう理由とは何なのでしょう。

言えない言葉、言いたくない言葉

あなたへと渡す手紙のため
色々と思い出した
どれだって美しいけれども
1つも書くことなどないんだ

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

「あなた」に手紙を書こうと思い出したいろいろなこと。

その思い出はあますことなく輝いて美しく「僕」の心に蘇りますが、だからこそ言葉にすることができません。

どんな言葉にして表せばいいのかがわからないのかもしれないし、それともどんなに言葉を尽くしても表現することができないということかもしれません。

でもどうして、言葉にしたくなって
鉛みたいな嘘に変えてまで
行方のない鳥になってまで
汚してしまうのか

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

それでも言葉にしたいという衝動に突き動かされます。

けれど「僕」にとってそれは重く苦しい偽りのもので、飛び出した先の行く宛てのない言葉でした。

結局きれいな思い出を汚してしまった罪悪感が「僕」には残ります。

愛してるよ、ビビ
明日になれば
今日の僕らは死んでしまうさ
こんな話など 忘れておくれ
言いたいことは一つもないさ

出典: vivi/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

「愛してる」という言葉だけを告げて、まるで何もないかのように話を終わらせます。

忘れて欲しいという言葉の後に続く「言いたいことは一つもない」という言葉には「言いたいことなんて沢山ある」という意味が含まれていることは想像に難くないですね。

沢山言いたいことがあっても言葉にできないから、何もないかのように何事もなかったかのように振る舞うのです。