「器用貧乏」という言葉を聞いたことはありますか?
何でも器用にこなせるが故に、どれも中途半端で成功しないという言葉。
最初の2行は、そんな器用貧乏な主人公の気持ちが描かれているように思います。
不器用で失敗ばかりしていても、結局は一生懸命頑張って成功していく周りの人たち。
そんな人たちを見ていると、「自分は主役にはなれない」と思ってしまいます。
主役になれるように頑張ればいいじゃん!
そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、そこには強さも、周りから愛され応援してもらうことも必要なのです。
だから開き直って、熱く生きている人を冷めた目で傍観して…。
どこかでそんな自分が嫌いでたまらないからこそ、愛されても素直にその気持ちを喜べません。
最後の言葉は突き放したように残酷ですが、それを言っている主人公に哀愁も感じられます。
傍観者の視点
全てが馬鹿馬鹿しく思える
「大好きだよ」そんな言葉 嘘
特に女子 お前あの子にも言ってたよな
はい、図星
相棒だか 相方だかなんだか知らないけど
勝手にしてろよ
出典: 正直日記/作詞:美波 作曲:美波
ここでも、主人公が冷めた目で周りを傍観している様子が表現されています。
周りにいるのは、家族や友達、そして恋人に惜しみなく愛情を注いでいる人たち。
しかし、自分が傷ついている時にはそれら全てが馬鹿馬鹿しく思えることもあります。
どうせ口だけのくせに。どうせ浮気もするくせに。
どうせ喧嘩したらすぐに離れるくせに。どうせ裏切るくせに。
そんな風に「どうせ○○だ」と決めつけることで、自分の心を保つのです。
2行目の後半は、怒りが入り混じったような泣き声でぶつけられます。
きっと本当は羨ましいと思っているし、愛されたいと心は叫んでいるのです。
でも、それを口に出したら心が壊れてしまいそうで怖いのでしょう。
羨ましい、愛されたい…でも憎い。
歌声や台詞で、こんな複雑な感情を聴き手に響かせる美波の表現力に心が震えます。
いつかなんて見えない
本当笑えるよなあ
綿埃みたいな言葉に犯されて
気付くんだ そして 人は
熱を知って 氷ほど冷たい寒さを知って 二人を知って
いつか知る痛みも いつか消える傷跡も
わかんないよ 分かんないよ 解んないよ
出典: 正直日記/作詞:美波 作曲:美波
2行目の「綿埃〜」というのは、先ほど出てきた愛情のこもった言葉。
好きとか愛してるとか、そんな甘い言葉たちです。
きっとこの楽曲の主人公はかつて愛の言葉を信じて裏切られた経験があるのでしょう。
だから甘い言葉に酔っている人を見ると、自分と同様にいつかは傷つく時がくると思ってしまいます。
誰かを信じて、愛して、そして愛されて…。
その幸せが大きければ大きいほど、一人になった時には苦しみが倍増するのです。
苦しんでいる人に「いつかは忘れられるよ」「いつかいい経験になるよ」と声をかける人もいます。
けれど、苦しみの渦中にいる時にそんな言葉は慰めにもなりません。
その、「いつか」なんて見えないのです。
誰もが抱える感情
平凡な大人になる
これでいいのさ
これでいいのさ
これでいいのさ
これでいいのさ
それでいいのさ
僕の未来が腐れきってても
そんで終わりさ
大人になるしかないなんてさ
本当ダサいよな
出典: 正直日記/作詞:美波 作曲:美波
主役になれなくてもいい。愛されなくてもいい。
そんな言葉で自分を騙して生きている主人公。
最後の最後まで、【正直日記】の歌詞には前向きな言葉が出てきません。
けれど、だからこそリアリティがあるのです。
きっと、主人公のような人は世の中にたくさん存在しています。
一方で芸能人や芸術家。起業家や誰かを救ったり、助けたりする人たち…。
そんな世界の「主人公」のような人たちもいるでしょう。
けれど多くの人たちは有名になれず、平凡でも小さな幸せを掴んで生きています。
でも、自分にしか掴めない才能や幸せが欲しくなる時もあるでしょう。
つまらない人生だなと嘆きたくなる瞬間もあると思います。
そんな気持ちを、この楽曲は綺麗な言葉を使わず、正直に代弁してくれているのです。
あまりにもストレートで胸のあたりがキリキリするかもしれません。
けれど、どこか生きる希望も同時に湧いてくるような力がこの曲にはあります。
それは「こんな気持ちを抱えているのは自分だけじゃない」と思えるからなのかもしれません。
【正直日記】を聴いてみよう
それでは、今回歌詞をご紹介した【正直日記】を聴いてみましょう。
先ほども言ったように、この曲は約7分半もあります。
しかし決して飽きることはありません。
むしろ何度もリピートしてしまいそうなくらい、その世界観に惹きつけられるはずです。
コメントには「泣ける」「助けられた」という言葉で溢れています。
きっと愛に傷ついたあなたにも優しく寄り添ってくれる一曲になるでしょう。