日本のポップ・テクノを代表するナンバーのひとつ
電気グルーヴの世界的な人気の足がかりとなった一曲
ポップ・テクノユニットとして日本のテクノシーンを牽引してきた電気グルーヴ。
その中でも不動の人気を誇る曲のひとつが「虹」です。
ボーカルを使用したいわゆる「歌モノ」と呼ばれるサウンド。
ですがアルバムに収録された「虹」は10分を超える長さの一曲となっています。
テクノ本来の音の浮遊感やビートを存分に楽しめる一曲です。
そして石野卓球とゲストボーカル五島良子によるボーカル部分は澄んだ美しさを感じさせます。
まさに虹を見上げるような夢見心地になれるナンバー。
この曲はドイツでレコーディングされ、その経緯でドイツでも発売されました。
これをきっかけに電気グルーヴの人気は世界的なものとなったのです。
ユニットにとってひとつの契機でもある一曲を歌詞から紐解いていきましょう。
五島良子の透き通る歌声から始まるSHORT CUT MIX
「虹」はSHORT CUT MIXとアルバムバージョンでアレンジが異なっています。
SHORT CUT MIXは歌詞がより多くなっており、インスト部分が短くなっています。
SHORT CUT MIXの歌い出しは五島良子の澄んだ歌声です。
夢見るような透明感のある歌声は純粋な少女を思わせます。
それを追うように現れるのが、石野卓球のどこか素直な印象を感じさせるボーカル。
石野のパートを五島が引き継ぎ、最後はふたり寄り添うユニゾンとなります。
そして五島のささやくような歌声を石野が支えリフレインとなり消えていく。
そんな構成となっているのが「SHORT CUT MIX」です。
テクノ・サウンドの響きが心地よいアルバムバージョン
一方のアルバムバージョンはボーカルの前後に大幅にインストゥルメンタルが追加されています。
静かな中から次第に音が浮かび上がってくるようなサウンドはまさに空に虹が現れるよう。
虹が光と水の粒で彩られるように、音の粒で夢見るようなサウンドが描き出されます。
また、こちらでは石野のボーカルが先に歌いだされるのも特徴です。
石野のボーカルがリードし、五島の澄んだ声がそれに続きます。
そして寄り添うようなユニゾンの後、リフレインはこちらではカット。
その分空にかかる虹のような音がきらめき、ゆっくりと消えていきます。
美しいサウンドをゆったりと楽しむことができるアルバムバージョン。
まさに虹が空にかかってから消えていくまでのような時間を描き出した一曲です。
虹を見るふたり
夢のような歌声が導く世界
遠くて近い つかめない どんな色か分からない
ゆっくり消える虹みてて トリコじかけになる
出典: 虹/作詞:石野卓球 作曲:石野卓球
ここからは歌詞を見ていきましょう。
「虹」の歌詞はとても短くシンプル。
石野の歌う男性ボーカルパートと、五島の歌う女性ボーカルパートがそれぞれ一節。
SHORT CUT MIXのみ、先に上記の女性パートが入っています。
ふわりと聞こえる澄んだ歌声は、夢の中に出てくる少女のよう。
虹を見上げて憧れる美しい少女のようなイメージが提示されます。
実体のない光の屈折によって生まれる虹。
美しく、目の前に見えるようで本当の姿は掴めない。
そんな存在に憧れる少女は、その本人も夢を見ているような存在なのでしょう。
「トリコじかけ」という不思議なフレーズも相まって、魅入られるような心地になります。
繰り返す日常にかかった虹のように
くりかえす事もタマにある ぼんやりとただ意味なく
遠く短い光から 水のしずくハネかえる
ゆっくり消える虹みたく トリコじかけにする
出典: 虹/作詞:石野卓球 作曲:石野卓球
ボーカルは石野卓球の男性パートへと引き継がれます。
どこか素直で朴訥な印象を受ける石野のボーカル。
「タマに」「ハネかえる」といったカタカナの言葉の使い方も印象的です。
遊び心があってまっすぐな、少年のような心を持った男性を思い描きます。
「くりかえす」のは日々の日常。
ぼんやりと日常を繰り返す中で、遠くに突然現れるのが虹なのです。
日常を一瞬夢の中に引き込むような虹。
ほんの短い間に現れて消えていく、その姿に男性は「トリコじかけにする」と感じるのです。
SHORT CUT MIXでのアレンジも考えると、この虹のように現れて消えたのが五島演じる女性なのでしょう。
ハネかえる、消えると動詞が多く動きのある印象なのも男性パートの特徴。
そこからは停滞した日常を動かす何かが現れたことを感じさせます。
虹に魅入られるように、出会った女性に心を奪われる。
そんな読み取り方のできる一節です。