「さらしもの」でいこう
2019年10月14日発表、星野源の通算2作目の配信シングル「Same Thing」。
このシングルのカップリングで発表された「さらしもの (feat. PUNPEE)」の歌詞を紐解きます。
しかし一方では燃え尽き症候群のような思いを抱えて生きていたそうです。
音楽活動からの引退さえ考えた彼が活路を見出したのが様々なアーティストとの共作でした。
この曲「さらしもの」ではヒップホップMCのPUNPEEとコラボレーションしています。
新しい血を導入した作業は楽しくて仕方がなかったようです。
しかし生まれた楽曲にはこの時期固有の星野源の苦悩が印字されていました。
「さらしもの」というタイトルが物語る自虐的なストーリーが展開されています。
ポップ・スターと私たちとの関係を見直すための1曲になりそうです。
歌詞が伝える深刻な内容に寄り添いながらも、どこまでもカッコよくできたこの曲を解明します。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
星野源のオーラ
ツアーの終わりはいつなのか
生まれて独りステージに立って
フィナーレまでは残り何公演
人差し指の隣の指はまだ仕舞っておいて
また後世
出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE
歌い出しの歌詞になります。
星野源はもはやドームツアーをするビッグなアーティストになってしまいました。
このドームツアーが彼を疲弊させたようなのです。
自分の音楽への情熱が巨大なビジネスに変換されるような世界が嫌になったのかもしれません。
昔の彼を知る人にとってこの大成功は嬉しい気持ちと複雑な気持ちが両方入り混じっているでしょう。
このことは本人にしてみたらなおさらのことだったようです。
好きなことを好きなようにする趣味人のような風貌さえある星野源。
もちろん生まれたサウンドは時代を画する素晴らしいものですから職業人としても抜けています。
しかしビッグ・サクセスを求めて貪欲に生きてきた人ではないでしょう。
ラジオではパーソナリティとして身近なお兄さんの顔を魅せています。
時代に求められてJ-POPを救ったような人物ですが、本人はこの状況を把握しきれません。
残りの公演回数を指折り数えますが中指さえ折ることを断念します。
すべてはもう後世の自分に任せたいような気持ちでいっぱいなのでしょう。
プライドをあげよう
この輝きは僕のじゃなくて
世の光映してるだけで
身の丈じゃないプライドは君にあげる受け取って
捨てといて
出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE
星野源はスターとしての自分の威光に疑問を持ちます。
確かに素顔の表情などはユニークなお兄さん以外の何者でもありません。
特別に優れたルックスに恵まれていて後光が差しているようなタイプのスターとは違うのです。
星野源は自分の光が周囲を照らしているのではないのだといいます。
たまたま自分はスポットライトを浴びたからこそ光っているのだと思いたがるのです。
この謙虚な思考こそが彼をスターにしたということを理解していないのでしょう。
星野源の人気は優しくユーモアあふれる人柄に負う部分も大きいはずです。
身近さを感じるからこそ人々は彼にスターダムへの階段を昇って欲しかった。
また彼は自分が生み出したポップスが如何にJ-POPにとって画期的だったかを知っていておかしくないです。
それでも星野源の前には幾人かの先人たちがいました。
たとえば小沢健二の名前は星野源を語る際に引き合いに出されることが多いです。
ならば音楽で培ったものやそこに依拠するプライドも丸々自分のものとはいえまい。
星野源はそんな謙虚な思いを抱えて生きているようです。
僕を育てたプライドじゃないから君が拾って使ってくれて構わない。
この謙虚さを世間は支持しているのですが、本人にはピンと来ないようです。
何とももったいない話ですが彼の苦悩は本物なのでしょう。
マルチタレントの悲劇
すべてはお芝居のようである
滑稽なさらしものの歌
あたりみりゃ 一面のエキストラ
だけど君のその世界じゃ
僕も雇われたエキストラだっけ
出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE
早速、タイトルを回収します。
さらしものにされているのは星野源自身です。
むしろさらしものにされていると思いこんでいるのでしょう。
さらしものというのはあまり名誉な称号ではありません。
バカを晒すというような言葉を援用したものでしょうから。
自分でステージを組み立ててポップ・スターとして君臨しているはずの星野源。
しかし一方でこの役割は果たして自分の意志で引き受けたものかどうかを考え始めます。
アリーナもスタンドも客席を埋めているのはファンではなくエキストラではないか。
そんな妄想を抱くようになってしまいました。
客席を埋めたファンにとっては哀しいラインかもしれません。
しかしやらされている感のようなものが押し寄せてきてアーティストが潰れてしまう。
こうした事態は回避されなくてはいけません。
星野源は役者としても脚光を浴びました。
二重三重の表現活動の中で境目が分からなくなります。
稀代のマルチタレントの悲劇かもしれません。
でもそういえば自分だってエキストラみたいなものだなという感慨を抱いてしまいます。
自分の人生や生活というものがあたかも芝居の中のことのように感じられる意識を反映しているのでしょう。
悩みというにはあまりにも症例が深刻かもしれません。
イヤモニの中にいた君
イヤモニで閉じこもって
また自分のせい(・・)って気づいてる
でもそこにすら君はいた
もしかすると孤独は一人ではないって...
いえる!
出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE