鬱々とした歌詞が一転して明るいものへと変化します。

イヤモニとは大きなステージでモニターとして使用する密閉型イヤフォンです。

外の歓声などを遮断してバックバンドの演奏の音だけを再生します。

イヤモニは演奏や歌唱に没入するためにある機材です。

そこでは否応なく孤独を実感してしまうかもしれません。

しかし星野源はこの辺りで気付きます。

孤独なのは自分ひとりではないだろう。

このステージを観るために集まった大勢の孤独と対峙しているのだと気付くのです。

そして音楽そのものの意義を見出します。

音楽は表現者だけでは成立しません。

受け手がいてくれるからこそ音楽は成り立ってゆくのです。

音楽そのものがコミュニケーションのツールであることを再確認させられます。

彼が自身の孤独に埋没していた時期に音楽は遠かったのかもしれません。

しかし音楽の現場に立ち尽くしてみるとそこに君がいることに気付かされます。

君といっても多くの君のこと。

つまりすべてのリスナーのことを指すのです。

信頼すべき相手は誰かということをこの一瞬で思い出しました。

君と僕とで始めたい

星野源【さらしもの (feat. PUNPEE)】歌詞の意味を独自解釈!どこにでもいる君の正体に迫るの画像

Starting off with you and I
さらしものだけの 愛があるだろう
まだ変わらない 怠けた朝が
歩みを照らしだすまま

出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE

君と僕とで始めようと英文は語ります。

ここでも星野源は自分こそ確かにさらしものだという思いはまだまだ抱き続けているのです。

それでも道化の愛というものに覚醒めます

自分なりに愛を感じて送り返すことだってできそうだという思いを表明するのです。

事態はすぐに変わるものではありませんが、朝焼けは訪れて新しい希望を照らします。

どこかに間抜けさというものを抱えたままなのですが歩き始めるのです。

さらしものから解放されるという歌ではありません。

さらしものでもいいじゃないか。

愛を歌うには十分じゃないかという真実に気付くのです。

君と僕の関係は明示されません。

語るまでもないいい関係を築いている人だからです。

ありふれたところにいるだろう君はリスナーの姿そのものでしょう。

僕がもう一度さらしものとしてやってゆきたいと思う際に必要なのもリスナーたる君なのです。

埼玉のへんてこな偉人

前人未踏の地を拓く

星野源【さらしもの (feat. PUNPEE)】歌詞の意味を独自解釈!どこにでもいる君の正体に迫るの画像

さらしものだよばかのうた
語りき埼玉のツァラトゥストラ
ぼっちの足元の先は
ほぼほぼ 道すらなかった

出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE

「ばかのうた」という星野源の最初のソロアルバムのタイトルを挿入します。

自分は埼玉県を代表するツァラトゥストラだというのですから大したものです。

ツァラトゥストラとはニーチェが万感の想いを注いで書いた異形の哲学書。

哲学書という割には固有の物語があり、論文的な叙述は一切しません。

こうした叙述の特異性から当初はまったく評価されなかった残念な作品です。

ニーチェがツァラトゥストラで描いたものの解釈はこの記事には荷が重すぎます。

星野源もこの辺りの知識がどれほどあるのか未知数でしょう。

ただ、確かにツァラトゥストラは埼玉県のような山間部を持つ土地から下界へ降りてゆきます。

もちろん星野源は埼玉で生まれ育ちました。

そしてツァラトゥストラこそさらしものの典型として描いたのでしたら彗眼です。

実際にツァラトゥストラの生涯やその苦悩は理解されません。

そしてツァラトゥストラ自身が自分の苦悩などどうでもよいと宣言します。

私が求めているのは私の仕事だと悟ってこの書物は朝焼けの中で終わるのです。

さらしものとしての自分の仕事に覚醒めたかのようなこの一節は大きなヒントでしょう。

ツァラトゥストラは孤独でした。

埼玉のツァラトゥストラもぼっちだといいます。

だからこそ前人未踏の地へと歩みを進められるのです。

あたかも唯一の人類であるかのように。

ツァラトゥストラに限らずニーチェには固有のこじらせ方がうかがえます。

そしてニーチェを知ってしまうとその読者もこじらせてしまうのです。

理解されなくても私はゆくという想いを強く持てます。

気がいいツァラトゥストラ

星野源【さらしもの (feat. PUNPEE)】歌詞の意味を独自解釈!どこにでもいる君の正体に迫るの画像

ふと振り返ると ぞろぞろと
後ろつけ楽そう有象無象
はてな別の方 道のない進む小僧
凡人の黒ぶち 偉大な暇人

出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE

埼玉のツァラトゥストラに関する叙述がまだ続きます。

後ろについて来られて嬉しいという心境は伝わってきません。

自分を物珍しいさらしものだと思った人々が何か面白いものをみるためについてきたという描写です。

ニーチェのツァラトゥストラでは盛んに誰かが質問してきます。

ツァラトゥストラはそうした人々に誠実に話すのです。

ただニーチェという人は決して気分がよくなる思想を与えてくれる人ではないでしょう。

形而上学に根本からノンといい放って新しい価値を哲学に持ち込みます

その書き口は非常に怖ろしいものです。

埼玉のツァラトゥストラの方はもう少し気がよさそうな印象があります。

関東の3、4番手を守る埼玉らしい控え目さが滲み出ているのです。

人と悩みというもの

君だって悩んでいるじゃないか

星野源【さらしもの (feat. PUNPEE)】歌詞の意味を独自解釈!どこにでもいる君の正体に迫るの画像

あらお悩みですか
君だってそうじゃん
同じムジナ
交わりだした

出典: さらしもの (feat. PUNPEE)/作詞:PUNPEE,星野源 作曲:Rascal,星野源,PUNPEE

人は自分の悩みを過大視して特権化する傾向があります。

しかし誰も皆悩んでいるのだなと気付けると途端に世界への愛を感じるものです。

このラインにある果てしない軽さの中で表現されている連帯の意志はとても大事でしょう。

さらしものだけが悩んでいた事柄を君も共有していることにようやく気付くのです。

悩みがあるもの同士仲良くやってゆこうじゃないか。

さらしものは君という存在に気付いて目を啓きました。

ここからはきちんとコミュニケーションをするときがくるのです。

相互理解の不能に悩んで残りの公演数を指折り数えていたさらしものの意識が変わります。

君とともに新しい世界を見つけたいという思いが湧き出てくるのです。

交流する中で相互理解だって可能になるでしょう。

自分だけがさらしものだったなんて意識も次第に薄れる可能性だってあります。

私たちの日常を考えるとバカを晒しているのは一握りの人間ではないと思わされるのですから。

僕と君の交歓の中で新しい意識や価値観が覚醒めます。

君はどこにだって存在している