新作『BOOTLEG』
彼の4枚目となるオリジナルアルバム『BOOTLEG』は、これまで手掛けてきた3作とは違い制作段階では明確なヴィジョンはなかったと語っています。
結果的にこの作品は、多数のコラボ作品やオマージュの要素を多く含む、色々な意味でバラエティーに富んだ作品となりました。
人との関わり方に変化が表れてきた、それがよく出ている証拠だと彼はこのアルバムについて言及しています。
常に周りからの疎外感や孤独、自分が異質なものであることを肌のどこかで感じてきたという米津玄師。
彼の表す世界は、繊細でいて、時に凶暴であり、数え切れないほどの多面性を秘めています。
独創的な米津玄師の世界
今作において彼は、受け手側である私たちには先入観を持たず、心を無にして聞いてほしいと望んでいるようです。
米津玄師の音楽はバックグラウンドにいろんなものを感じることができ、その幅広さは最近の若手アーティストには類を見ないレベルといていいかもしれません。
よく話題に上るその歌詞の世界についても、作品はもちろん、インタビューやSNS、ブログなどからも宮沢賢治や室生犀星、三島由紀夫などからの影響を感じさせます。
とにかく言葉の選択が美しく、語彙が豊富です。
彼は、常々”美しさ”を追求して作品を生み出しているようですが、その”美しさ”の定義も一筋縄ではいかないもの。
曲によってさまざまなに変化する米津玄師の世界の一端に触れてみることにしましょう。
アルバムのトップバッターを担う「飛燕」
春の季語「飛燕」
疾走感、爽快感を感じさせるアルバムの一曲目を飾るのにふさわしいナンバーです。
飛燕とは、飛んでいる燕の様子を表した言葉であり、春の季語としてもよく使用されます。
ちなみにこのアルバム『BOOTLEG』の8曲目の収録曲、「春雷」も春の季語として用いられる言葉。
同じく春を表す言葉を冠した曲ですが、その世界観は全く違うものとなっていて比較してみても面白いと思います。
otokake(オトカケ)米津玄師の「春雷」は米津玄師のニューアルバム『BOOTLEG』収録曲!歌詞の意味を最速でお届け!
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「飛燕」の歌詞を検証
翼さえあればと
灰を前に嘆いていた
鳥のように飛んでいく
あの雲に憧れて
出典: https://twitter.com/Kenshi_Yonezu_R/status/926820913802133504
慰めも追いつかない
一人きり空の果て
傷に傷を重ねて
まだ誰かが泣いている
出典: https://twitter.com/Kenshi_Yonezu_R/status/927523041629822977
もしも自分にもっと力があったなら。
状況を変えるような決断力や聡明さや、前進する力。
守るものも守れずに、失われたくないものが失われていく。
過去の自分にも連なる、傷ついて膝を抱えた誰か。
翼があれば、感じ取ることはできても救う手立てを持たない自分の非力さを補える。
そんな風に感じている彼が目に見えるようです。
その声が聞こえたら
夜の底に朝の淵にこそ響く歌があると
呼ぶ声が聞こえたらそれが羽になる
ずっと風が吹いていた
あの頃から変わらぬまま
君のためならば何処へでも行こう
空を駆けて
出典: https://twitter.com/Gaaa__ri/status/932177534204108800
二度と明けることはないと思うような暗く深い絶望の夜の底でも、深淵からうっすらと差し込む光が感じられるようやく訪れた希望の気配でも。
もしかすかにでも誰かの声が聞こえたなら。
その声に導かれて、どこへでもきっと空駆けていける。
呼んでくれさえすれば、君のもとへ駆けつける。
飛燕の如く、軽やかに、素早く。誰よりも。
一途で純粋な想いは一直線に君に向かうのでしょう。
透明で切れるような空気感が痛いほどに感じられる部分です。
呼ぶ声さえあれば、彼は飛べるのです。
この部分から、アルバムの2曲目に収録されている「LOSER」の”声を出せ”という内容の歌詞にもリンクしていくのではないでしょうか。