瀕死の白鳥
それでは、「遠距離恋愛」の裏に隠された本来のテーマとはなんでしょうか。
「瀕死の白鳥」だそうです。
KinKi Kidsといえば、昔からのイメージは王子である。
王子といえば、「白鳥の湖」。
そこから、さらに「瀕死の白鳥」、つまり「今にも死にそうな白鳥」へと至ったそうです。
一羽の白鳥が湖に浮かんでいる。生きるために必死にもがくが、やがて息絶えてゆく・・・。
松本はアンナ・パヴロワのバレエ舞台「白鳥の湖」での「瀕死の白鳥」の演技を見ました。全身で表現された死にゆく白鳥。
その美しさを歌詞に込めたそうです。
たしかに、「白鳥」というとどこか悲しげなイメージがあります。
死ぬ間際にあげる白鳥の最後の鳴き声・・・傍から見ても、松本隆の美しく、物語的な世界に溶け込むテーマです。
そして、松本は、「白鳥」を直接描写せずに書くことを、作詞をするにあたって自分に課したそうなのです。
死にゆく鳥が きれいな声で
歌うように 波が泣いた
出典: http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=S06018
このサビの部分の歌詞はとても大切です。
ここがあるがゆえに、本来のテーマとつながります。
歌詞全体で白鳥という言葉は1回も使われていません。
にもかかわらず、全体の詞からイメージする「鳥」は「白鳥」としか思えません。
無垢な時代との決別
本当に 終わりなの 君はコクリ頷く
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「瀕死の白鳥」とは、この詞に出てくる僕と君との別れです。
それとともに、「白鳥」によって示される「心の中の汚れていない若さ」つまり「無垢な青春・若さ」との決別でもあるのです。
「スワンソング」に込められたメッセージ
自立
「無垢な青春・若さ」との決別とはどういうことなのでしょうか。
それについて、松本隆は、2番の歌詞の次の部分こそが、「スワンソング」の中で最重要な部分であるといいます。
2番というと音楽番組などでは歌われないことが多いですよね。
しかし、ここがポイントなのです。
聞いて私たち
生きてる重みは
自分で背負うの 手伝いはいらない
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ここがこの歌の心臓部であり、メッセージである。
松本隆はこんなことを言っています。
無垢な青春、若い自分にさよならをし、自立してゆく。
その決別は成長であり、それを意識してこそ次のスワンが生まれる。
そう述べた上で、こんな厳しいことを言っています。
お互いに甘えるなってこと。
誰かが悪くてこうなってではなくて、自分で変えてみろよ。
現代の若者、そして日本人へ
これは、若者たちへのメッセージでしょう。
いや、年齢を問わず、現代の日本人全般へのメッセージではないでしょうか。
今、仕事や家族、経済面、健康面で自分の境遇が思うようになっていない。
そのときに、多くの人は他人のせいにしがちです。
家族だったり、配偶者だったり、恋人だったり、勤めている会社のせいにしたり。
それで、こうして他者のせいにして甘えあっている。
そんな過去の自分と別れて、新しい自分-スワンに生まれ変わりなさい。
そう言っているのです。
松本隆からKinKi Kidsへ
もちろん、松本隆からKinKi Kidsへのメッセージも込められています。
KinKi Kidsの2人は、「スワンソング」が発売された2009年30歳になりました。
「硝子の少年」のときは18歳でしたから、それから12年一回り。
松本は彼らをプロフェッショナルなミュージシャンとして高く評価しています。
充分自立しているわけです。
だから「スワンソング」に込められたメッセージがそのまま当てはまるとはいえないでしょう。
ただ、松本隆は「KinKi Kidsが30歳という大人になって、それまでの彼らとは一線をひくという意味で象徴的な歌になるといいと思った」といっているようです。
「それまでのKinKi」というスワンが死に、新しいスワンが生まれる。
「硝子の少年」と決別して、大人になるKinKi Kidsにエールを送った歌でもあったのです。