「東京NIGHTS」の光と影

地方出身の女性が主人公

宇多田ヒカル【東京NIGHTS】歌詞和訳&解説!バカ騒ぎしていても本当の心は…?都会に疲れたあなたへの画像

2002年6月19日発表、宇多田ヒカルの通算3作目のアルバムDEEP RIVER」。

このアルバムに収録された楽曲東京NIGHTS」の歌詞について考察いたします。

ところどころで英文が挟まれますので和訳を添えた上で解説しましょう。

アルバムDEEP RIVER」は宇多田ヒカルのデビュー当時の衝撃がまだまだ健在な頃の作品です。

オリコン年間アルバムチャートで1位、3ミリオンのセールスを記録します。

宇多田ヒカルの一挙一動に注目が集まっていた時代の歌「東京NIGHTS」。

彼女自身はニューヨーク生まれで日本とアメリカを行き来して育った国際人。

しかし「東京NIGHTS」では東京に憧れて上京した地方出身の女性を主人公に据えます。

地方から上京した人にとって東京とはどんな土地なのでしょうか。

パーティーなどで東京の夜を満喫しているはずなのに積もりゆくストレス

心をボロボロに傷つけてでも居続ける土地なのかどうかを考え始める。

「東京NIGHTS」の歌詞をすべてご紹介して解説いたします。

それでは実際の歌詞をご覧ください。

上京する人々で作られた街

母・藤圭子をモデルにしたのか

宇多田ヒカル【東京NIGHTS】歌詞和訳&解説!バカ騒ぎしていても本当の心は…?都会に疲れたあなたへの画像

山を越えて 海を渡って
ガードレールの上 飛び越え
今は昔 ひとつの影が
なんとなくこの街へ

悲観はしないけどなにかが足りない
私をここへ呼び寄せるのは誰?

出典: 東京NIGHTS/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル

地方から東京へと上京する姿が描かれています。

上述の通りで宇多田ヒカル自身は日本とアメリカを行き来する根っからの自由人でした。

巨大都市としてならば生まれた土地であるニューヨークの方が東京よりも格上です。

しかし母親である藤圭子は北海道の岩見沢から上京してきました。

藤圭子の人生は悲喜こもごも濃密なもので、ここで語るには紙幅が足りません。

宇多田ヒカルは母親の人生から何かを学んで、想像力の羽を伸ばしながらこの曲を書いたのでしょう。

東京は今なお「転入超過」が続く大都市です。

地方からの転入者であふれかえっている街。

その点で「東京は田舎者の掃き溜め」などと口悪くいう人もいます。

しかし日本でのあらゆる文化の発信地が東京です。

地方の過疎化が進行してしまっても自分の故郷を捨てて上京したい。

実際、地方の経済の先細り感が深刻になってきた時代でもあります。

地元に魅力的な仕事がないのも東京一極集中の原因です。

ただし「東京NIGHTS」の歌詞中には仕事の事情は歌われません。

あくまでも東京の文化に憧れて上京してきた主人公の姿が描かれます。

光に集まる夜の虫たちみたいな姿です。

藤圭子の「女のブルース」との相関

宇多田ヒカル【東京NIGHTS】歌詞和訳&解説!バカ騒ぎしていても本当の心は…?都会に疲れたあなたへの画像

江戸時代以降、東京の街はいつでも人々にとって光源であり続けています。

それでもどこか虚しさがあるのが東京の真実でもあるでしょう。

宇多田ヒカルの母である藤圭子が歌った「女のブルース」にこんな一節があります。

ここは東京 ネオン町
ここは東京 なみだ町
ここは東京 なにもかも
ここは東京 嘘の町

出典: 女のブルース/作詞:石坂まさを 作曲:猪俣公章

藤圭子はこのうちの東京は嘘であるというラインが特に気に入っていたといいます。

宇多田ヒカルは母親からこうした打ち明け話を聴いていたのかもしれません。

引用した箇所はどれも「東京NIGHTS」の歌詞のモチーフのようにさえ思えるのが不思議です。

主人公が抱える東京への憧れと失望が交錯するシーン。

憧れが大きかった分だけ、裏切られたと思う気持ちも根深いものなのでしょう。

母・藤圭子の影はこの先も登場します。

不思議な運命を感じるほど「東京NIGHTS」の歌詞は深いです。

愛は見つけるのは難しい街

まだまだ若い主人公

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TOKYO NIGHTS
見つからない
本当の自由を探してる
輝きだす
TOKYO NIGHTS
Love is hard to find
運命の出会いを待ちなさい
まだ若い

出典: 東京NIGHTS/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル

タイトル回収です。

NIGHTが複数形になっていることに注意しましょう。

幾晩も乗り越えてきたけれどという想いが滲むのです。

英文は「愛を探すのは困難」という意味になります。

憧れの東京生活、それも夜の街中でのこと。

いくら探しても自由に愛を謳歌できることはできません。

東京は魅力ある街ですが、魔法が使える国ではないのです。

夢を叶える人もいれば、挫折を味わう人もいます。

素敵な人と出会えることを期待して上京しましたが、夢を叶えるにはまだまだ若すぎるようです。

彼女に理想の男性は現れるのでしょうか。

期待ばかりが膨らんで夜の東京で遊んでみるものの、出会いの兆しさえない状態です。

クラブ文化が全盛期であったと思われます。

クラブではナンパなど普通の挨拶のようなもの。

しかしそれでは運命の人に出会えません。

クラブでは叶えられない恋愛を主人公は望んでいるのです。

巨大都市の渇きと飢え